①全能神ゼウスの神
突然顔が強ばり、視線を彷徨わせる私の耳に、ため息が聞こえた。
驚いて顔を上げると、陽の真剣な視線と絡む。
「無理、しなくていいよ。」
静かな声色で、欲しい言葉が紡がれた。
「還らなくていい。」
私は、目を見開いて陽を見つめる。
「さっきはああ言ったけど…せっかく会えたのに、やっぱり離れるのは嫌だ。」
陽は膝に肘をついて、指を組んだ。
「でも…。」
いざ、還らなくていいと言われると、両親の顔と別れ際のゼウス様の言葉が浮かび、心が迷う。
「そうだよね。…親御さんのことを口にしたのは、僕だし…。『陽』だって、待ってる…。勝手なこと言って…ごめん。」
自嘲気味に笑った陽は、すぐに明るい笑顔を浮かべた。
「とりあえず、数日ここで暮らしてみなよ。で、還る決心がついたら、ゼウス様のところに送って行くから。」
その提案に、すぐに頷きそうになり、慌ててうつむく。
「さっきの彼女は…大丈夫なの?」
目を逸らしたまま訊ねると、陽は一瞬きょとんとした後に、あははと笑った。
「なぁんだ、そんなこと!」
そして、そのまま悪戯っぽく瞳を光らせながら、うつむいた私の顔を覗き込んでくる。
「めいの存在で、どうこうなる関係じゃないよ。」
「…。」
(固い絆で結ばれてるんだな。)
複雑な思いを抱きながらも、私は取り繕った笑顔で頷いて、滞在させてもらうことに決めた。