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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 五、生命の章

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下・結び、ひらく・3、ナイル讃歌



 生命神ドサムの力に貫かれ、
 ラアの額の赤い宝玉が、割れ砕けた。
 同時に、光の放出が、ぴたりと止む。
 強烈な光がこつぜんと消え去り、天は夜より暗い闇となる。
 にわかに、ラアの肉体は墨のように黒々としたかたまりに変わっていった。
 焼かれた木像のように――しかしその状態も長くはもたず、音を立ててひび割れてゆく。
 その隙間から、こぽりと、黄金がこぼれ出た。
 沸き立つ坩堝から生じる、熱く熔けた金属のように。あるいは煮え立つ溶岩のように、ラアの内側から次々とあふれ出る。
 こぽ、こぽ、こぽり。
 それは生まれた端からまだまだ形を変え、夜の天に散らばった。
 ぽこぽこ、ふつふつと――形を定めず、闇を彩る。
 闇を食みその内側で燃やし去る、命のかけらのように。
 あるいは闇を住処とせんとうごめく、冥府の魔虫のように。
 己を形作っていたその器を砕き、あふれだす。
 ラアは叫んだ。……このときを待っていた、と。
 光を生む星、そのものは闇でできており、
 その闇のうちから、黄金はほとばしる。
 生むその黄金のために、自身はより黒々と影に沈み、
 光に食ませ、また光を食む。
 黄金はすべての色を映しこみながら、
 しかしそれらのために自身の色を失うことがない。
 吉星か、凶星か。
 その善悪の枠を切り裂き、彼は輝く。
 その強さのために。
 美しく人の心を縛り付け、畏怖の念を抱かせるそれ。
 その瞬間の美。直後には失われる美。
 生まれた瞬間、死にいたる、その狭間の輝き。
 頂点に達した一瞬。ただ、そのときだけの。

  さあ、どのような形になるも自由だ。
  翼を。そうしてどこまでも高く飛んでいこう。
  もっとも明るく輝く星になるために。
  何よりも強く、もっと強く――。


 ――――


 中央で身を横たえたカムアは、
 手放した意識のどこかとおくで、夢を見た。
 闇空を駆けあがる、雌獅子の夢。
 金の毛皮をなびかせ、それはまっすぐに、闇をただよう黄金に向かう。
 そしてそれらにたどりつくと、獅子は黄金に焼かれ、炎を上げた。
 金の粉を撒き、あかあかと燃えあがる火は突如、左右にさっとひろげられ、一対の翼をかたどる。
 そのまま、おおきな一羽の鳥となって羽ばたいた。
 高く、高く、どこまでも飛び去り、
 ぐんぐんと遠ざかり、そうして、
 闇空にただひとつの星となるかのように、かなたでちかりと灯る。
 夢のなかでカムアは、それを見上げていた。ずっとずっと、みつめていた。
 夜に溶けて、なくなってしまうまで。

      *