赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 71話~最終話
ひげの管理人が、清子からもらったカツオ節と削り器を取り出す。
カツオ節は、カチンカチンの本枯れ節。おまけに削り器は、つかいはじめたばかりの新品。
それを見た作業員の2人が、目を丸くする。
「どうしたんだ。そんなもの!。それで味噌汁の出しをとるのか。
たまげたなぁ。山小舎にあるまじき一品じゃねぇか」
「これか。これは、さっき下っていたおねぇちゃんからもらったもんだ。
世話になった礼にと気持ちよく置いて行った。
そういえばあの2人。
ホントに無事に、下まで降りて行ったんだろうか・・・」
「やっぱり気になっているのか、管理人さんも。
おねえちゃんたちというのは、ヒメサユリを見に行ったあの2人のことだろう。
実はおれたちも、あの2人のことが気になっている。
このガスは、かたらいの丘のあたりから発生したものだ。
ということは、あそこへ向かったおねえちゃんたちが、いちばん先に
身動きがとれなくなっているはずだ」
「俺もその点が気にかかっている。
嵐が来るまでは、もう少しだけ時間の猶予がある。
あの2人の安否が、どうも気にかかる。行くか・・・探しに」
「しかし。このガスだ。
ヒメサユリの群生地に居るとしても、うまく見つけることができるかな?」
「それでも俺はあの2人が、かたらいの丘でビバーク※しているような
気がしてならねぇ」
ひげの管理人がカツオ節を握り締めて、ポツリとつぶやく。
※ビバーク 緊急事態の野宿のこと。日本語では不時露営。
時間がかかり日が暮れてしまった場合や、急な体調不良や
天候が急変した場合などのさまざまな場合が有る。
いずれも山岳遭難の一歩手前の状況といえる。
(73)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 71話~最終話 作家名:落合順平