赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 71話~最終話
耳を前方に傾ける。
ざわざわと風が動く中。それとは別に、何かが動く気配が聞こえる。
何かが動くたび、たまの好物のカツオ節の匂いが、ここまで運ばれてくる。
『絶対に間違いじゃねぇ。おいらの好物のカツオ節の匂いが、
こっちへ近づいてくる』
たまがピョンと、清子の胸から飛び降りる。
地面に降りたたまが、ひくひくと鼻を動かす。
すべての神経を、耳と鼻へ集中する。
風の流れが変わった。
こんどは先ほどより、かなり強くカツオ節の匂いが漂ってきた。
匂いは、尾根にちかい登山道の方向からだ。
『たまらねぇ・・・。
朝から柿ピーだけをかじっていたので、おいらの腹はペコペコだ。
こんなところで好物のカツオ節と出会えるとは、ラッキーだ。
どこのどなたか知らないが、地獄で仏とは、まさにこのことだ・・・』
カツオ節の匂いが、動いた。
どうやらこちらへ向かって、ちかづいてくる気配が有る。
『もう我慢できねぇ』
空腹のたまが、カツオ節の匂いに反応する。
1歩、2歩とカツオ節の匂いに向かって歩きはじめる。
その瞬間。とつぜん強風がやって来た。
カツオ節の匂いがたまの頭上を吹き抜けていく。
風の方向が変わる。そのたびに、カツオ節の匂いが方向を変える。
『あれ・・・また方向が変わりやがったぞ、カツオ節のやつ・・・
登山道だと思ったら、今度は、谷底からカツオ節の匂いが吹き上げてきた。
いったいぜんたい、どうなっているんだ、この風は?』
めまぐるしく方向を変える匂いにたまがふたたび、自分の嗅覚へ
集中していく。
すべての神経を、自分の鼻へ集中していく。
(72)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 71話~最終話 作家名:落合順平