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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 71話~最終話

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 ひとことだけ清子が小春の胸でつぶやく。あとは言葉にならない。
涙があふれてきて、言うべき言葉が押し流されていく。

 かじりつく清子を、小春がやさしく抱きしめる。
頬をつたっていく清子の涙を、小春が指先でひとつずつ丁寧にぬぐう。

 近づいて来る父の姿を、恭子は静かに山荘の庭で待ちつづける。
『私はパパの胸になんか飛び込まないわ。清子のような子供じゃないもの・・・』
ふふふと笑い始めた笑顔が、時間とともに固まっていく。

 「頑張ったんだってなぁお前。偉かったぞ」

 父の手が恭子の髪に触れた瞬間。
恭子の両方の瞳から、不覚の涙がこぼれ落ちていく。
『泣くつもりなんか全然なかったのに・・・泣き虫だなぁ、あたしも』
恭子のつぶやきが、父の分厚い胸の中へ消えていく。

 「お疲れさま。難儀だったでしょう、朝早くからここまで登って来るのは。
 初めまして。山荘の管理人です。
 この子たちの、冷静な行動と勇気を褒めてやってください。
 無事でいたのは、この子たちの正しい決断の結果です。
 遭難寸前になった時。ほとんどの登山客が、不安からパニックになります。
 この子たちは不安と正面から向き合いました。
 褒めてあげてください。さすがに、あなたたちのお子さんです」

 のそりとうしろへ現れたたまを、ひげの管理人が抱き上げる。

 「この小猫も、勇敢でした。
 ピンチを知らせるため、わたしのところへやってきました。
 カツオ節の匂いにつられたそうです。
 ですが、おかげで草原の中の2人を救出することができました。
 この子猫の勇気も、褒めてやってください。
 あ・・・・立話ではなんですねぇ。
 どうぞ、山荘の中へ。
 朝早くから、はるばると登ってきていただいたお2人を
 山荘にいる全員とともに心の底から歓迎します。
 ごらんください。
 嵐が過ぎ去った今朝の飯豊連峰は、めったにないほど素敵な景色です。
 あらためまして、ようこそ、三国山荘へ。
 私が三国山荘を預かっている、ひげの管理人です」


(最終回へつづく)