赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 71話~最終話
「子猫のくせにつまらんことを知っておるな、おまえさんは。
騎士階級のこうした実利的な動機によって、レディファーストの
文化が生まれた。
貴婦人に奉仕する騎士道の理念、それがヨーロッパで誕生した
レディファーストだ。
ヴィクトリア朝末期の油絵『騎士の叙任式』では、女性を崇敬する
騎士の姿が描かれておる。
お前さんの今日の活躍も、どこか、ヨーロッパの騎士道に似たものがあった。
格好良かったぞ、今日のお前さんは。
俺が女なら一発で、お前に惚れちまうところだ」
ヒゲの管理人がニンマリと笑ったとき。
風呂場から『出たよ~、たま』と呼ぶ清子の声が聞こえてきた。
『おっ、清子がナイトを呼んでいる!』ピクリとヒゲを立てたたまが、
嬉しそうに管理人の膝から駆け出していく。
『やれやれ・・・やっぱりおなごの色香には、勝てないものがあるようだ。
あのガスの中。命をかけて守ったんだ。
あいつが俺の処へ駆けてこなけりゃ、発見できなかったかもしれんからなぁ。
声を聴いて喜んですっ飛んでいくのも、無理のない話だ」
雷雲が過ぎ去ったあと、発達した低気圧がやってきた。
その日の夕方から荒れ模様になり、強烈な雨と風が三国山荘を包み込んだ。
最初の低気圧が通過した直後。
日本海で発生した次の低気圧が、天候回復させる隙をあたえず、再び
まったく同じコースをたどり飯豊連山を襲った。
嵐は2日間、吹き荒れた。
ようやくおさまった3日目の朝。ようやく飯豊山に、快晴の朝が訪れる。
雲ひとつなく晴れ上がった青空に、ひさしぶりの太陽が現れる。
濡れた大地がじわじわ温められていく。
大地から、霧と化した水蒸気が一面に立ち登る。
時刻が朝の7時を過ぎた頃。痩せた稜線の道に、2つの人影が現れた。
(76)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 71話~最終話 作家名:落合順平