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短編集17(過去作品)

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幸運の女神



               幸運の女神


――もう、あの女と会うのはよそう――
 何度それを感じたことか。
 大学時代から数えて五人近くの女性と付き合った私こと雪崎信彦は、女性の扱いは慣れて来たつもりでいた。
 しかしそれが間違いであることを悟ったのは、大学時代に好きになった女性からである。大学時代の付き合いというのは、お互いに遊びが半分だと思っていた。お互いに拘束しあうこともなく、会いたい時に連絡を取り、会える時に会う。ただそれだけだった。大学生同士なら時間が結構空いているので、気にしなくてもほとんど会っていたかも知れない。もちろん、会って話をするだけで終わるはずもなく、そのまま一緒に朝を迎えることも多かっただろう。
 それが付き合いだと思っていた。大学生同士なので、それほど将来のことを話しあうこともなく、ある意味淡白な付き合いだった。
「あなたって話しやすくて、何でも相談に乗ってくれそうだわ」
 それが付き合い始めに相手が感じることらしい。私もなるべく最初は相手の話を聞いてあげようと考えていた。相手から振ってくれた話に対し、私がアドバイスを含めて返す。このやり取りがうまく行っていたのだ。
 最初は相手がノリ気である。相手がクールであればあるほど自分に目を向けさせようとしてアクションを起こしてくるものだということは分かっている。だからといって、計算してクールになるわけではなく、自分の性格だと思っている。計算高く人と付き合えるほど、器用な性格ではないはずである。
 相手が私をその気にさせる。その気になってしまうと自分で自分の世界を作ってしまい、愛されていると思い込むのも、不器用な性格なるがゆえかも知れない。いわゆる「ナルシスト」であり、自信過剰なところのある私は、その気になってしまうと、もう後戻りできなくなる。
――この女は私を愛してくれている――
 それが錯覚であれ、そう感じてしまったら、その瞬間から二人の世界が自分の世界に変わってしまう。相手がどう考えていようと自分がイメージした付き合いに変わってしまうのだ。
「あなたの考えていることが分からない。怖くなる時があるの」
 これが破局を迎える時のいつもの相手の決めゼリフ。一気に我に返って考えるが、いつもの結末であるくせに、それがなぜなのか分からない。
 理屈では分かっているのかも知れない。クールな私を好きでいた女性は、私が付き合いやすいタイプだと思っていたことだろう。それが急にその気になってしまったら、
「あなたの気持ちが重荷なの」
 という言葉が示すとおり、ひいてしまうのだ。
 気持ちの中に釈然としないものがあり、何とも後くされの残る付き合い方になってしまう。しかし現実はいつも同じ結末で、何度も味わっているにもかかわらず、
――一体何でなんだ――
 と感じてしまう。
 それでも、大学を卒業し社会人になると、少し状況は変わってきた。
 さすがに大学の頃のように出会いが多いわけではない。出会いの場所に顔を出すこともなければ、実際に出会いたい女性を見つけることも難しい。
 しかし社会に出て、覚えなければならないことが多すぎると、女性と知り合うことを二の次にしなければならないからだ。
 女性と付き合うことは、気持ちに余裕がないとできないと思うようになっていた。学生時代の頃は、どちらかというと女性がそばにいることで、そこから余裕が生まれると思っていた傾向があった。それはきっと時間的にある余裕が、そのまま気持ちの余裕だと思っていたからであり、付き合い始める時の気持ちに表れていたのだ。
 社会に出ることによって、その違いを少しずつ感じるようになっていったのだろう。あまり女性と知り合うことに貪欲な気持ちではなかった。確かに、気になる女性がいないわけではない。まずは自分の気持ちに余裕を持たなければ始まらなかった。
――自分の気持ちに余裕を持つこと――
 それは自分に自信を持つことだった。元々自信過剰な私は、何か自分に自信が持てるようなハッキリとした形になるものがあれば、そこから余裕ができてくるはずである。一たす一が二ではなく三にも四にもなる、そんな相乗効果を持った自信過剰だと思っている。
 さすがに会社に入ってすぐの新入社員は横一線に並んでいた。それだけに気持ちにも心地よいハリがあり、余裕とまではいかないが、やる気には繋がってくる。ここで臆していれば先が続かないのは分かっていて、かといって最初だからということで優しい言葉を掛けてくれる上司の態度を鵜呑みにしていては、自分に甘えてしまうだろう。

 そんな私も会社に慣れてくるのは早かった。仕事にも上司にも慣れて来たというべきか、研修期間中の真面目な態度が上司の目に留まったようだ。研修期間中は全員本社で研修を受け、その成果によって勤務地が初めて決まる。支店に行かされる連中が多い中、本社の営業部に配属になったのはきっと上司がそばにおいて将来の幹部候補にしておきたかったからに違いない。
 そんな話は前から聞かされていた。就職活動の頃から会社についての大まかな話は先輩や就職活動部の職員からも聞いていた。全国展開している企業についての話は結構入ってくるのである。しかもこの会社は私の大学と繋がりがあるようで、毎年数人が入社していたのだ。いわゆる大学閥といわれるやつである。
 そんな私が有頂天になっても不思議のないことだった。期待と不安を持って入ってきた会社、不安の方が圧倒的に強かったであろう。少しくらい大学で成績がよくても、入社してしまえば、皆横一線、これからのスタートである。しかし、ここでも私は成功を収めた部類だ。いつものことであるが、一つが順調にいけば、他のこともうまく行くことが多い。きっと自信がつけば、自分の実力が発揮されるのか、他のこともトントン拍子にうまくいく。
 今までがそうだった。自分に自信が生まれると、自分でも分からない力を発揮することがある。そこには見えない力が働いているようだった。自分でもそのことは自覚していて、何かのめぐり合わせがいいのかも知れない。いや、それだけで片付けられない。いつもよりもしっかりまわりが見えていて、どう進んでいいのかも分かっているからだ。
 しかし、今回はそうもうまくいかなかった。確かに有頂天になっていて、まわりが私中心に動いているようにさえ見えていたのに、たった一人の女性の登場で、急転直下、立場が危うくなってきた。
 それは会社の近くにあるスナックでのことだった。
 そこに初めて立ち寄ったのは、研修も終わりかけの頃。仲間と一緒に数人で出かけた時のことだった。
 店の名はスナック「コスモス」、こじんまりとした店で、飲み屋街から少し離れたところに位置していた。
「おい、大丈夫なのか? ぼったくられたりなんかしないよな」
 一人がそう呟く。
 心配はもっともだ。スナックなどあまり入ったことのないと言っていたやつのする心配だからだ。しかし、私もそのことについては危惧していた。飲み屋街から少し離れていることに不安は隠せなかった。
「大丈夫さ、心配するな。この店は俺の知り合いから聞いた店なんだ。俺が名前を出せば大丈夫なんだよ」
作品名:短編集17(過去作品) 作家名:森本晃次