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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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 体が崩れ落ちるような感覚に、美紗ははっと我に返った。無意識のうちに、日垣の腕にすがりついていた。その腕が、力の抜けた身体を固く抱き寄せる。美紗はそれに抗うことなく、紅潮した頬を彼の胸に押し当てた。濃紺の制服の硬い生地が、ひんやりと感じられた。
「私は元旦の夜までは東京にいる。松永と交代で自宅待機することになっているから」
 骨ばった手が、浅い吐息をつく美紗の髪を梳いた。壊れ物に触れるように優しく動く指の感触が、身体の中で波打つものをゆっくりと静めていった。
「日垣さん……」
 美紗は、聞き取れないほど小さな声で、何かを尋ねた。髪を梳く手が止まる。日垣は、短くささやき返すと、己の肩ほどの背丈しかない女を、再び固く抱きしめた。すっかり暗くなった空を臨む窓ガラスに映る彼の顔は、優しく微笑んでいるようにも、悲痛な想いに歪んでいるようにも見えた。