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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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「鈴置さん。どうも元気ないですねえ」
 日垣ではない声に、美紗ははっと我に返った。正面にいる佐伯が、細長い上半身をかがめ、美紗を覗き込むように見ていた。左隣にいる高峰とその隣の松永も、揃って美紗のほうに視線を向ける。
「飲みが足りんのかな」
「い、いえ……」
「あなたがいけるクチなのは皆知ってる。ワインでいいか?」
 わずかに赤らんだ顔をした松永は、美紗の返事も聞かずに中身の少なくなったカラフェを手に取ると、大須賀と騒がしく言い争いをしている小坂に向けてそれを振った。
「ほら幹事! 揉めてないでワイン追加!」
「松永2佐ぁ! さっきの押しかけ女房的な発言、どう思います?」
「そんなこたどうでもいいから、オーダー入れろ」
「すいませーん。うちの幹事、気が利かなくってえ。赤ワインでいいですかあ? ワイン以外も飲み放題に入ってますけどお」
 小坂の代わりに、「幹事補佐」の大須賀がテキパキと場を仕切る。松永はやれやれと言わんばかりに肩をすくめると、美紗のほうに向きなおり、にわかに真顔になった。
「何か気がかりなことでもあるのか。まあ、年度末だしな」
「何も、ないです……」
 質問の意図が分からず、美紗はイガグリ頭を不安げに見上げた。
「年明けからずっと、俺の気のせいかもしれんが、……何ていうかな、少し様子がおかしいような感じがして、ちょっと気になってた」
 珍しく遠慮がちな松永の言葉に、高峰と佐伯が同意するかのように頷く。美紗は思わず身を固くした。避妊薬の副作用に悩まされたのは、飲み始めた一月半ばからひと月ほどの間だったが、特に仕事を休むこともなく、周囲には気取られずに済んだと思っていた。よくよく考えてみれば、職場ではほとんど顔を合わせることもない日垣に気付かれたことを、一日中同じ「シマ」にいる人間たちが見逃しているはずはない。
「最近は調子よくやっているようだったから敢えて言わなかったんだが、いい機会だから、今、言っとく」
 松永は、自分のグラスの中身を一口飲むと、美紗をじっと見据えた。