カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ
「プライベートな話じゃ役に立てないが、仕事絡みの問題なら可能な限り『シマ』全体でサポートすべし、ってのが俺のポリシーだ」
「はい……」
「だから、何かあるなら、愚痴でいいからとにかく話せ。それから、もし異動を打診されているなら」
松永の目が、美紗の反応を探るかのように、わずかに細まる。
「自分の希望だけを考えて、受けるかどうか決めろ。『シマ』の面々に遠慮するこたぁない。若い仲間がキャリアを積むために旅立つのを見送るのは、誇らしいことだからな。片桐がいい例だ」
「すみません」
美紗はいたたまれずに下を向いた。自分の希望するところを知ったら、彼は何と思うだろう。自分の希望を優先して出した結論に、どんなにか失望するだろう――。
「別にあなたが謝る話じゃないだろ」
松永は破顔一笑すると、グラスの中のワインを一気に空にした。
部下たちが好き勝手に語り合う中、日垣は、美紗と松永のやり取りを伏し目がちに聞いていた。端の席で小柄な体をますます小さくする女を見やる眼差しは、深い憂いと戸惑いの色に満ちていた。
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作品名:カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ 作家名:弦巻 耀