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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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「プライベートな話じゃ役に立てないが、仕事絡みの問題なら可能な限り『シマ』全体でサポートすべし、ってのが俺のポリシーだ」
「はい……」
「だから、何かあるなら、愚痴でいいからとにかく話せ。それから、もし異動を打診されているなら」
 松永の目が、美紗の反応を探るかのように、わずかに細まる。
「自分の希望だけを考えて、受けるかどうか決めろ。『シマ』の面々に遠慮するこたぁない。若い仲間がキャリアを積むために旅立つのを見送るのは、誇らしいことだからな。片桐がいい例だ」
「すみません」
 美紗はいたたまれずに下を向いた。自分の希望するところを知ったら、彼は何と思うだろう。自分の希望を優先して出した結論に、どんなにか失望するだろう――。
「別にあなたが謝る話じゃないだろ」
 松永は破顔一笑すると、グラスの中のワインを一気に空にした。

 部下たちが好き勝手に語り合う中、日垣は、美紗と松永のやり取りを伏し目がちに聞いていた。端の席で小柄な体をますます小さくする女を見やる眼差しは、深い憂いと戸惑いの色に満ちていた。





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(「カクテルの紡ぐ恋歌 Ⅺ」に続きます。表紙に「Ⅺ」のリンク先がございます。どうぞ宜しくお願いいたします。本シリーズは、現在「Ⅺ」まで続いております。「カクテルの紡ぐ恋歌」のタグ検索で、シリーズすべてが表示されます)