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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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(第九章)アイスブレーカーの行方(3)-送別の宴②



 さほど大きくない店の奥まった一角に九人分のスペースが用意されていた。大須賀は日垣と片桐を奥側の真ん中の席に座らせると、己はさっさと意中の人間の隣に収まった。
「あっ、大須賀さん! 『幹事補佐』は幹事の隣だろっ」
「席次を決めるのは『幹事補佐』の特権でございましてよ」
 普段にも増して濃厚メイクの大須賀は大げさに高笑いした。小坂が丸顔を膨らませる。
「忙しい1部長をお招きできたのは誰のおかげだと思ってんだよ」
「はいはい、小坂3佐殿のご人脈の賜物なんでしょー」
 大声でやり合う二人を、日垣は苦笑いしながら制した。
「片桐の送別会に私まで便乗させてもらって、ありがたく思ってるよ。せっかく声をかけてくれたのに一時間ほどしかいられなくて申し訳ない。八時から別の会合があって」
「ホントにお忙しいところ、わざわさお時間作ってくださって、嬉しいですわあ」
「小坂の将来がかかっていると聞いたからね」
 切れ長の目がいたずらっぽく細まると、男性一同が含み笑いをした。
「ちょっと! 日垣1佐に何て言ったんですか!」
「僕の運命の出会いがかかってるので何とかしてください、って言った~」
「何それー!」
 再び幹事と「幹事補佐」が賑やかに言い争う。それを見やりながら一番端の席に座った美紗は、奇妙な安堵感を覚えていた。勘のいい直轄班長と内局部員が同席する中、日垣を目の前にして素知らぬ顔を通さなければならないが、存在感のある大須賀はいい隠れ蓑になってくれそうな気がする……。

 騒々しい乾杯が終わると、片桐は、談笑する周囲に構わず、テーブルの上に並ぶ香り豊かな料理を次々と己の取り皿に載せた。
「もうすぐスパゲティもカレーもすき焼きも好きな時に食えなくなるかと思うと、何だかサミシイっす。今のうちにいろいろ食いだめしときたい気分で」
「メシ屋なら、向こうのほうが市ヶ谷よりよっぽどたくさんあるだろ」
 CS(空自の指揮幕僚課程)に入校する片桐が翌月から通うことになる幹部学校は、最寄りの恵比寿駅まで歩いて十分足らずという好立地にあった。有名なビールの名を冠した街には、居酒屋から高級レストランまで、あらゆる種類の飲食店が揃っている。
 チーズたっぷりのピザを子供のようにほおばる1等空尉を怪訝そうに見た松永は、その理由に思い当たるとニヤリと口角を上げた。