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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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(第九章)アイスブレーカーの行方(3)-送別の宴①



 統合情報局第8部の大須賀恵が「直轄ジマ」に乗り込んできたのは、三月初めの、名残の雪がうっすらと都会の空を舞った次の日のことだった。

 ドアを乱暴に開けて第1部の部屋に入ってきた大須賀は、鼻息も荒く美紗の席へと歩み寄った。「直轄ジマ」とその周辺の席に座る者たちが、豊満ボディの女性職員を揃って凝視する。しかし、当人はまるで意に介さず、「美紗ちゃん!」とフロア中に響くような大声を出した。
「日垣1佐、異動なんだってえ? 知ってたあ?」
「先月の終わりくらいから、噂だけは、ちらほら……」
 美紗は目の前に迫る大きな胸を見つめながら、しどろもどろに言葉を返した。
「そうだったんだあ! 何で教えてくれなかったのよお!」
「その時は、噂程度の、お話だったので……」
「日垣1佐がいなくなっちゃうなんて、来月から私、どーやって生きてったらいいの? こんな不毛な場所で、彼だけが私のオアシスだったのにぃ」
 大須賀は、あっけにとられる「直轄ジマ」一同の前で歌劇のヒロインよろしく天井をふり仰ぎ、一人で好きなだけ喚き散らした。
「ああ、一度でいいから日垣1佐としっとり飲みたい人生だった。ねえ、送別会とかしないのお?」
「総務課の主催で一席設けるそうですけど、各部の部長とうちの部の課長以上が対象らしいので……」
「そっかあ。それじゃ、ちょっとね。もう少し手ごろな会があったらいいのに。直轄チームではなんかやんないの?」
「片桐1尉の送別会の時に日垣1佐にも入ってもらえたら、って話してはいるんですけど、日垣1佐はお忙しいので……」
 美紗の言葉が終わらぬうちに、大須賀はバッチリとメイクの入った目をカッと見開いた。
「それ、私も入れて!」
「でも、日垣1佐が来られるかどうかは」
「なんとかしてよお!」
 大須賀は美紗に掴みかからんばかりに迫った。そして、後ずさりする美紗から窓際に座る直轄班長のほうにきっと顔を向けた。