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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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「吉谷さんは大丈夫なんですか?」
「私? 私は別に被害ないわね。たまにお飾り秘書みたいな随行役を頼まれたりするけど、そういう話が来るときは必ず班長が間に入ってくれるし、定時帰りの条件もきっちり守ってもらえてるし」
 表情を曇らせる美紗とは対照的に、吉谷は狡猾な女スパイのようにほくそ笑んだ。
「安全な所から職場のグダグダを見てると面白いわよ。ひと騒ぎあるたびに周りの人間関係も把握できるし。誰とどういうコネを作ったら自分のキャリアパスに役立つか、じっくり観察させてもらってる」
「はあ……」
「あなたは? 美紗ちゃん。今後のキャリアちゃんと考えてる?」
「いえ、まだそんな……」
「日々の仕事をきちんとやるのも大切だけど、『三年後、五年後はどうしていたいか』を意識しておくのも大事。将来を見越して勉強したり、情報仕入れたり、人間関係作ったり」
 美紗は、胸元に隠れるインペリアル・トパーズを感じながら、気まずそうにうつむいた。

 将来に、興味はない。あの人と一緒にいられる「今」だけがすべてだから……。


「今も5部の所掌を担当してるの?」
「はい」
「5部の人たちとはうまくやってる?」
「うまくやれているかどうかは……。5部の専門官の方々には、いつもいろいろ教わってばかりです。駐在経験のある方に現地の生活のお話を聞かせてもらったり……」
 ためらいがちに答える美紗に、吉谷は「いい雰囲気でやってるじゃない」と言って顔をほころばせた。
「彼らが美紗ちゃんにうんちく垂れるのも、育ててあげたい気持ちがあるからよ。5部の専門官ポストに空きができたら、お声がかかるかもね」
「私なんて、とても」
「そういうのダメだって、前も言ったの覚えてる?」
 朗らかな笑顔はそのままに、形の良い眉が少しだけ上がる。