小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

INDEX|12ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 


 美紗は大きく息を吐き、まだ一人で笑っている吉谷をうかがい見た。洞察力に長けた先輩に気付かれる前に、別の話題を振らなければ……。
「あの、吉谷さん。……空幕(航空幕僚監部)のほうは、どんな感じですか? 総務部に、いらっしゃるんですよね?」
 とってつけたような問いに、吉谷は楽しそうに答えた。
「うん、総務部総務課。思ってたより居心地いいかな。班長も課長も何かと気を遣ってくれるし、部長はお茶目で面白いし」
「部長さんって、白髪がもさもさの人ですか?」
「そう。あ、いつだっけ、うちの部長と一緒にいる時に美紗ちゃんと会ったことあったよね」
 美紗が空幕総務部長を間近に見たのは数か月ほど前のことだった。昼休みに敷地内の売店に買い物に行った後、事務所へ戻る途中で二人に会った。吉谷と共にエレベーターに乗ってきた空将補は「お茶目」とは程遠い強面だったが、人は見かけによらないという典型かもしれない。
「やっぱり、長がいい人だと職場環境も良いよね。ヘンな奴の下になったら、ホント大災害」
「空幕副長は、やっぱり大変な人なんですか?」
 美紗が声を低めると、吉谷は再び周囲を見回して、小さく頷いた。
「まあ、幕長(航空幕僚長)の隣でやりたい放題やるわけにはいかないから、傍若無人ってほどじゃないけど。それでも、副長絡みの揉めゴトはいろいろあるみたい。うちの部長がよく愚痴こぼしてる」
「……そうなんですか」
「あの副長、いろんなコトに首を突っ込みたがってなんでも引っ掻き回すし、ちょっと持ち上げられると、相手がキャリア(キャリア官僚)だろうが部外だろうがペラペラしゃべっちゃうって。おまけに、結構根に持つタイプみたい。日垣1佐も面倒な奴と喧嘩したわよね」
 美紗は、日垣が憂鬱そうに空幕副長の話をしていたことを思い出した。日垣の部下であり副長の親族でもあった無能な3等空佐を巡り両者が激しく対立したのは、もう二年以上前のことだと聞いた。以前にコトの次第を詳しく説明してくれた内局部員の宮崎の話によれば、非があるのは間違いなく副長の側だと思われたが、桜星を肩に三つも付ける将官は、今でも日垣に対して憎悪の念を抱いているのだろうか。