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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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「中で食べるのって、何か落ち着かないよね。取りあえず近くにイガグリはいなさそうだけど」
 アボガドとサーモンが詰まったライ麦パンのサンドイッチを幸せそうにほおばる吉谷に、美紗もようやく顔をほころばせた。さっきまで感じていた微かな吐き気は、いつの間にか消えていた。食べられるか不安に思いながら買った小さなパンの香りが、急に香ばしく感じる。
「そういえば、『空の小僧』はCS(空自の指揮幕僚課程)受かったんだってね。得意の減らず口で面接を突破したのかなあ。でも、あんな調子で入校して、やっていけるのかしら」
「片桐1尉は、何だか変わりました。最近は政策論議が好きみたいで、よく松永2佐や宮崎部員と難しい話をしてます」
「へー。減らず口も進化したんだ。じゃあ今は、『海の小僧』がひとりでおバカやってんの?」
 直轄チームに所属する3等海佐と1等空尉を小僧呼ばわりした吉谷は、目を細めてコーヒーの香りを吸い込み、にわかに口角を上げた。
「この前、メグさん……、あ、8部にいる大須賀さんと会ったんだけどね。最近『海の小僧』の視線がアツくて気になるとか言っててさ。美紗ちゃん、どう思う? あの小僧、本気でメグさん狙ってるのかな」
 美紗は、大須賀恵とクリスマスを一緒に過ごしたいと嘆いていた小坂の様子を思い出し、思わずクスリと笑った。
「小坂3佐、よく大須賀さんの話してますよ。今日は目が合っちゃったとか、服が可愛いとか、楽しそうに……」
「ホントに小僧だね」
「ダイエットも始めたみたいです。お昼休みは毎日走りに行ってて」
「メグさんにモテたいから? 真面目に涙ぐましい努力してるんだ」
 吉谷は声を立てて笑い出した。
「でも今の状況じゃ、『小僧』に勝ち目ないわよね。メグさんの理想は日垣1佐だし、その理想の君が同じ職場にいるんじゃ……」
 ふいに出た名前に、心臓が嫌な鼓動を打つ。その音を吉谷に聞かれそうな気がして、美紗は思わず胸元に手をやった。微かに震える指に、ハイネックの白いニットの下に潜むペンダントヘッドの固い感触が伝わった。
 あの人からもらったインペリアル・トパーズ。職場に着けて来てはいけないと言われた、ピンクとオレンジの二色に輝く誕生石――。