「生まれ変わり」と「生き直し」
それでも、本能には逆らえないという気持ちがあるからなのか、それ以上、何かを考えるということはできなかった。
さっきまで、弥生のことばかりを考えていて、りほに弥生の身代わりをさせればいいと思っていた自分が恥ずかしくなった。それは、りほこそが、弥生の本当の魂であり、今の弥生に宿っている魂は、彼女の前世から繋がっている「本性」ではないかと思えてきた。
つまり、弥生が死ぬということは、りほも死ぬということだ。
さつきの話では、さおりの容態は落ち着いているということだったのに、どうして修平は、弥生が死んでしまうという前提で考えてしまっているのだろう。それは、修平の心の中に語り掛けてくるものを感じたからだ。それがりほであることは、修平にはすぐに分かった。
――俺は、りほを中心に見ていたんだ。りほの後ろに弥生がいても、その存在だけは感じていたが、弥生の後ろにりほがいる時、りほは弥生と重なって見える。りほを感じた時点で、弥生はりほになってしまっているのだ――
と思った。
今修平は、弥生の後ろにもう一人誰かを感じる。そこにいるのは、赤ん坊だった。それが修平には、さおりが流産した赤ん坊に思えてならない。りほは、赤ん坊の生まれ変わりになるのだ。
赤ん坊が見えると、今度は弥生を正面から見ることができた。
弥生の後ろにも誰かがいる。その人がさおりであることは修平には分かった。
――弥生の中で、さおりは生き直しているんだ――
さおりは死んだわけではない。しかし、子供を流産したこと、そして子供の父親をバイク事故で亡くしたこと、それらを忘れて新たな人生を歩もうとしている。それまでのさおりは、どこかで生き直すことができるのだろう。それが、弥生ではないのだろうか。
生まれ変わりと生き直し、人間はどちらかを選ぶことができるのだろうか? 少なくとも、修平は、人間はどちらかに進むことができるのだと思いたかった。
弥生は、修平を正面から見つめていたが、そのうち修平の後ろを気にしているようだった。
――俺も、誰かの人生を生き直しているのではないか?
と思い、修平は恐る恐る後ろを振り返ってみるのだった……。
( 完 )
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作品名:「生まれ変わり」と「生き直し」 作家名:森本晃次