小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

「生まれ変わり」と「生き直し」

INDEX|17ページ/35ページ|

次のページ前のページ
 

 今までで親友と言えるのは、下野隆だけだった。彼とも高校に入学後、ぎこちなくなってから連絡を取っていない。お互いに変な遠慮があったのだろうか。それなのに親友だと思えるのは、それ以降、本当の親友と思えるような相手が誰一人として現れなかった。
 そういう意味での女性の親友は、さつきになるのではないだろうか。
 裕子とは付き合っている。裕子とさつきは親友である。そして、修平とさつきは……、親友だというのは、おかしいだろうか?
 裕子が相手だと、なかなか聞くことができない話も、さつきが相手だと話すことができる。ただし、その話は、裕子に関係のない話に終始した。
 ここで、裕子の話題を出してしまうと、三人の関係が一気に崩れてしまいそうな気がするからだ。
 三人一緒にどこかに出掛けたことはない。そういう意味では、三人の中で誰が蚊帳の外かというと、
「裕子なのだ」
 と修平はずっと思っていた。
 しかし、実際にはこの場合の蚊帳の外は修平だった。
 裕子が何も知らないと思っていたのは修平だけのことで、三人の関係を牛耳っていたのは、さつきだったのだ。
 元々、さつきと修平の間での、誰にも言えないような会話の中に、裕子の話を混ぜないようにしようと言い出したのは、さつきだった。修平は最初、納得がいかないと思いながらも、すぐに承諾した。修平は、さつきと話をしている時、裕子の話題を出さないように言い出したのは自分なのだと錯覚した。そして、そのまま思い込んだようだ。なぜなら、錯覚の裏に、後ろめたさが存在したからだ。この場合の後ろめたさとはもちろん、裕子に黙って、さつきには何でも話せるという親友のような関係を持ってしまったということだった。
 結果的に、それがさつきの思い通りに展開する形になった。まさか、すべてがさつきの頭の中で形成された計画であるなどとは思えないが、さつきの様子を見ていると、さつきの考え方をそのまま行動に移せば、本人が考えている以上の効果を生み出すことがあるということを分かっているかのように感じたからだ。
 三人の関係の全体図が見えてきた時にはすでに遅かった。裕子との関係は、疲れ以外の何者も生み出すことのないものだった。そして、さつきとの関係も、気が付けばすべてさつきの考え通りに進展している。そのことは、修平の中にあるプライドが、どうしても許すことのできないことだった。
 三人の関係は、そこで途切れてしまった。裕子との関係は、さつきの存在があろうがなかろうが、結果的には同じだったような気がする。つまりは、
「普通の男女の別れ」
 だったのだ。
 さつきとは、男女の関係になったわけではないが、男女間での親友としての関係を保っていけると思っていただけに、さつきが修平にした仕打ちは、修平のプライドを傷つけたことで、終息に向かうのは仕方のないことだった。だが、さつきに対して、どうしても忘れられない感情が同居していたのも事実だった。それが何を意味するものなのか、その時の修平には分からない。
――時が解決してくれる――
 そう思うしかなかった。
 そして、その通り、二人とは連絡を取り合うこともなくなり、気が付けば以前の修平に戻っていた。
――あの時間は何だったのだろう?
 別に無駄に過ごした時間だったとは思っていない。かといって、何かを得た期間たったとも思えない。自分の人生の中で何を意味するものなのか、分からない期間だった。後になって思い出すこともあるだろうが、前を向いている限り、思い出すことはないに違いない。

                  第三章 再会

 普段の大学生活に戻った修平は、そろそろ就職活動を考えなければいけない時期に差し掛かっていた。大学の就職相談室にも頻繁に顔を出すようになり、まるで一年生の頃に戻ったかのように、大学に顔を出していた。
 しかし、精神的にはまったく違う。
 これから大学生活を楽しめると思ったあの時期と違い、これから社会という荒波に呑まれるための準備段階としての就職活動。まるで受験生に戻ったかのようだ。
 高校時代の孤独で単純な勉強とは違い、就職活動は相手があること。いかに自分をアピールできるかというのがカギになってくるのだが、果たして修平にどんな武器があるというのだろう。それを思うと、不安以外の何者でもなかった。
 それを払拭させるため、大学の就職相談室に足しげく通っている。
「気を紛らわせるため」
 というのが重要な役目として機能するものだということを、その時初めて知った。確かにまわりは皆敵だと思ってしまうと、高校時代の孤独で単純な受験勉強を思い出させるが、情報交換に利用していると思うと、少しは違ってくる。
 二度と、高校時代の受験勉強の頃には戻りたくないという思いが、頭の中に交錯していることに気が付いた。高校時代の受験勉強の時期に戻るということは、今までの大学時代に過ごした四年間を、すべて打ち消してしまうような気がして仕方がなかったからだ。その中に、さつきや裕子のことも含まれているということを意識はしなかったが、無意識にでも感じているからこそ、戻りたくないという思いが強かったに違いない。
 就職活動も佳境に入り、とりあえず内定を一つもらった修平だったが、正直、自分のやりたい仕事での会社ではなかった。何とか他にも内定がもらえないかということで、必死になって就職活動を続けていたが、なかなかうまくはいかなかった。やはりあまり気が進まないとはいえ、一社でも内定をもらうと、緊張感は途切れてしまうもののようだ。
 そんなある日、面接会場で懐かしい人に出会った。懐かしいというにはそんなに時間が経っているわけではないのに、それでも懐かしいと感じるのは、それだけ就職活動中は今までとはまった違った時間が流れていたからだろう。
「修平さん、お久しぶり」
 何の屈託もない笑顔で近づいてきたのは、彼女の方だった。
「ああ、君の方こそ、お元気そうで何より」
 目の前に現れたのは、さつきだった。裕子とうまくいかなくなって、さつきとも会うことがなくなってしまうと、恋愛も友情も、どちらも中途半端になったようで、どこか煮え切らない気持ちになったが、
「吹っ切るなら今だ」
 と、すべてを一緒に吹っ切ることを選んだ修平に、中途半端な気分になったなどという言い訳は利かないだろう。それでも、おっ互いに暗黙の了解があったのか、別れはスムーズだった。あまりにもスムーズ過ぎて、気持ち悪いくらいだった。
 こちらが勝手に離れていったのに、再会したさつきは、それまでのいきさつを水に流してくれたかのような屈託のない笑顔に、思わず後ずさりしてしまいそうになった修平だった。
「裕子とは、あれから?」
「ええ、連絡も取っていません」
 裕子との間では、お互いにぎこちなさを感じていたこともあり、交際の結末として、自然消滅というのは、大いにありえることなので、二人が連絡を取り合わなくなったとしても、それは別に不思議のないことだった。