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「生まれ変わり」と「生き直し」

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                 第一章 萩への旅

 平成二十六年になってしばらくして、季節は冬から春に変わりかけていた。朝晩はまだまだ寒く、日中も暖かい日もあれば急に寒くなったりもする。この季節によくみられる気候だった。
 そんな二月から三月にかけて、
「毎年のことなのだが、この時期にはいつも一抹の寂しさを感じるな」
 と思っている男性がいた。
 昨年に大学を卒業し、就職した会社でもいよいよ一年目を終えようとしていた。長いようで短かったこの一年。大学時代の一年間とはまったく異質のものだったことを実感していた。
 だが、季節の節目において感じる思いは、大学時代も会社に入ってからも変わっていない。夏の終わりから秋にかけては寂しさを感じるし、冬になると体の動きは鈍る分、気持ちは表に出ているような気がしていた。年末年始にかけての慌ただしい期間も、気が付けば終わっていたと思いながらも、その時々に感じた思いが新鮮だったと思うこともあり、過ぎてしまえばあっという間だったような気がするのだった。
 彼は名前を田島修平と言った。地元でも中小の金融機関会社に勤めていた。同期入社も何人かいたが、辞めたという話は聞かない。修平は営業ではなく事務職だった。月のうち、忙しい時期もあるが、ある程度決まっているので、リズムを崩すようなことはなかった。営業の中には、不規則な勤務時間に体調を崩したり、ストレスを抱えたりして、辞めていく人も多いというが、事務職の中でも同じようにストレスを抱えて辞めていく人も少なくはない。一年目の修平にはまだ知らないこともたくさんあるということなのだろう。
 一年目を終えようとする修平も、今までは一番後輩たったことで大目に見られていることも多かったが、四月からは後輩も入ってくる。甘えていたわけではないが、今までのようにはいかない。それでも、
「四月になると、ワクワクするんだろうな」
 と感じる修平だった。
 修平は昨年の今頃のことを思い出していた。
「大学を卒業し、まだ就職していない中途半端な時期」
 という落ち着かない気持ちだった。
 大学の友達に誘われて、卒業旅行にも行った。海外に行く人もいたが、修平の中で海外は想定外だった。実際に彼の友達は、
「旅行に行くなら国内」
 と、卒業旅行に限らずそんな思いでいる連中が多かった。
「類は友を呼ぶ」
 というべきであろうか。
 そんな連中と、大学時代にはよく旅行に出かけたものだ。特に二年生の頃は、時間があれば旅行に出かけていた。アルバイトで稼いだお金を旅行に使うというサイクルで、それに満足感を感じていた。
 三年生になると、一人旅が多くなった。友達同士で出かけるのも悪くないのだが、一人で出かけて、そこでどんな人と知り合うかと思うと、ドキドキするくらいの興奮を覚えていた。元々は友達と一緒に出掛けた旅先で知り合った一人旅をしている男性を見ていると、自分も一人旅をしてみたくなったというのが、きっかけだった。
 一人旅への憧れは、その時に始まったわけではない。子供の頃から一人旅に憧れていたような気がした。大学に入って友達がたくさんできると、友達との行動がこの上ない楽しみになったことで、旅行も友達と一緒に行くことが今までで一番だと思うようになっていたようだ。
 一人旅をしていると、自分が一人旅に憧れた理由が少しずつ分かってきた。一番の理由は、
「人に左右されることなく、自分で気ままに決めることができること」
 だった。
 他にも、
「もし、好きな人ができた時に、他の人と競合することはない」
 旅に出ると、気持ちが解放的になり、その分、好きになる人もできやすくなってくる。特に惚れっぽいと思っている修平にはそのことが余計に気になる。元々一人旅の醍醐味の中に、
「恋をしてみたい」
 という思いがあるのも事実だ。
 自分がそう感じるように、相手も旅に出ているという解放感から、故意をしてみたいと思うのではないかと感じていた。
 実際に一人旅をしている女性と知り合い、一緒に旅行をし、帰ってきてからも連絡を取り合ったこともあったりした。しかし、どうしても遠距離恋愛になるということと、旅行から帰ってくれば、それまで抱いていた恋心が、
「旅という解放感によるものだ」
 と気づいてしまうのだろう。
 つまりは、夢から現実に引き戻されるということなのだ。
 修平は逆にその思いが分からなかった。旅先で感じた相手に対する思いは本物で、その思いをこれからどんどん育んでいくという気持ちになっていたのだ。だから、最初は旅行から帰ってきてから連絡を取っていても、彼女の気持ちの微妙な変化を分からなかった。そんな修平に業を煮やしたのか、彼女の方から修平を避けるようになってきた。メールを出しても返事が来ない。電話を掛けても出てはくれない。ここに至ってさすがに修平も自分が疎まれていることに気が付いた。
 気まずい思いを抱いたまま連絡を取ることに懸念を感じたことで、その時の恋は終焉を迎える。
「もう、ここらでいいだろう」
 と声に出していうことで、自分を納得させるのだが、それでも、懲りずに一人旅を続け、同じように恋をして、同じ結末を迎える。
「本当に懲りないな」
 とも感じるが、修平にとって、それまでの失敗は、
「自分のせいなんだ」
 という思いと、
「相手が悪かっただけなんだ」
 という思いが半々だと思っていた。
 実際には、自分のせいだと心の奥では思っていて、それを認めたくない自分が、相手が悪かったということで納得させようとしているだけだった。本当のところは、半々だと思っているにも関わらず、その根拠がないことで、まったく分かっていなかったのだが、まったく分かっていない時は、
「半々ということで決着をつけよう」
 と、安易な結論付けで決着させてしまおうとするところが修平にはあった。
 自分のことを分かっていないと思っていながら、そんなところがある自分を嫌いになっている自分がいることに気づいていた気がする。実に異様な気持ちになっていたに違いない。
 修平は、卒業旅行とは別に、卒業前に学生時代最後の一人旅に出かけた。出かけた先は、山口から津和野に回り込み、萩を経由して、下関に向かうものだった。
 実はこのルート、大学時代にはいちど二度行ったことがあった。最後の旅に選んだのは、それだけ思い出も詰まっていると思ったからだった。その時々でいろいろな思い出もあった。卒業を間近に控えていると、それまでとはまったく違った心境になっていた。二度目の旅行の時の思い出が一番強かったのだ。
 友達との卒業旅行も終わって、いよいよ一人になった気分がした。期待と不安が入り混じった精神状態は、今までにないものだった。大学での就職活動では、就職することがすべてで、それがゴールのように思えたが、実際に就職が決まり、卒業を控えるだけとなると、
「ここからがスタートなんだ」
 という思いが、しみじみと湧いてくるのだった。
 新幹線で新山口駅に着くと、そこから津和野まで山口線の旅、津和野で一泊後、萩に向かう。萩では二泊を考えていた。