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【終】残念王子と闇のマル

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カレンが花の都を離れて、季節はいくつも巡る。

その間も手紙のやりとりで、麻流の状況は報告を受けていたけれど、内容はいつも変わらなかった。

でも、カレンは麻流が生きているだけで頑張れる。

麻流がいつか必ず目を覚まし、もう一度自分の前に現れると信じて、その時に麻流に恥じない王になるべく努力を重ねていた。

そして本日、麻流の25歳の誕生日を迎えた。

「去年の誕生日も、今年の誕生日も忙しくて、花の都に行けなくてごめんな~。」

カレンは天井を見上げ、ため息をつく。

すると、久しぶりに黒い影が音もなく降り立った。

「理巧。」

驚きながらも嬉しそうにするカレンの足元に、理巧は跪く。

「姉上への贈り物を頂きに参りました。」

カレンは満面の笑みで頷くと、外套を羽織った。

「今から用意しに行こうと思ってたんだ。ちょっと待ってて!」

言いながら身を翻して、執務室から出て行く。

理巧はカレンの背を見送った後、バルコニーへ出た。

そこから遠くに見える城下町は、先程も通ってきたけれど以前とは比べ物にならないくらい活気に溢れ、華やかだ。

「義兄上、頑張ってますね。」

切れ長の黒水晶の瞳を半月にしながら理巧が呟くと、その隣に小さな影が降り立つ。

「本当に、やってのけたんだ。」

眩しそうに目を細める影に、理巧が満面の笑顔で頷いた。

「私は、先にダナン様にご挨拶して参ります。」

言いながら消えた理巧に笑みを漏らすと、影はバルコニーから飛び降り、城門へ向かう。

その頃、カレンは花畑から戻って来ていた。

「理巧を待たせてるから、全力で帰るよ~!」

カレンの指示に、黒混じりの白い長毛の馬が嘶く。

逞しい体躯に優雅な毛並みのまだら模様の馬が、整備された道を駆け抜ける。

「あ、王様!」

「王様~♡」

一瞬で通りすぎる国王に呼び掛けてくる国民に、カレンは手を挙げて応えた。

麻流との婚約パーティーの時と同じ長さに整えられた少し長めの金髪が風にそよぎ、陽の光を反射してカレンをより美しく彩る。

この若き国王は美しいだけでなく、心優しく誠実で、とても優秀だった。

国民はこの国王を誇りに思い、その国王が唯一愛している王妃の快復を心待ちにしている。

「あ、理巧~!」

城門に見える人影に、カレンは手をふりながら笑顔を向けた。

「…え?」

けれど、じょじょに近づく小さな人影に、カレンはシンのスピードを落とす。

肉眼でハッキリとその姿をとらえられるようになると、カレンはその人影を食い入るように見つめたまま、シンから飛び降りた。

カレンの腕には、大きな白い花束が抱かれている。

麻流にプロポーズした時と同じ、白い花束。

カレンはすくんだように、そこから動けない。

ただ少し先に仁王立ちしている、小柄な黒髪の忍を瞬きもせずに見つめていた。

「また護衛もつけずに、遠乗りですか?」

久しぶりに聞く冷ややかな声に、風になびくおかっぱの黒髪。

丸い大きな黒水晶の瞳は半月に細められ、口調とは裏腹に白い肌の頬はリンゴ色に染まっている。

「麻流!!!」

カレンは駆け寄ると、その小さな体を思いきり抱きしめた。

「麻流…麻流…」

確かめるように何度も何度も抱きしめるカレンの背に、麻流も腕を回して抱きしめ返す。

「お元気そうで、何よりです。」

長く離れていたとも思えない口ぶりで言う麻流を、カレンは抱き上げて睨んだ。

「なんだよ、それ!っていうか、こっちのセリフじゃん、それ!」

相変わらず可愛い反応のカレンに、麻流は楽しそうに笑う。

「ずっと意識が戻ってないと思ってたのに…なんで隠してたのさ!」

カレンが涙声になりながら怒ると、麻流は少し精悍になったその頬に手を添えて、微笑んだ。

「自信を持ってほしかったんです。」

思いがけない言葉に、カレンは瞳を瞬かせる。

「国民にも、あなたが本当は優秀なんだと知ってもらうには、あなたが改革を成し遂げるまで私が傍にいない方がいいと思って、皆に内緒にしててもらいました。」

どこまでも自分を大切にしてくれ、導いてくれる麻流に、カレンは愛しさが溢れた。

「それは違うよ、麻流。」

カレンは麻流の額に自らの額をくっつけると、至近距離でまっすぐに見つめる。

「いつでも、麻流は僕の傍にいた。麻流がずっと支えてくれたから僕が改革を成し遂げられたと、国民もみんな知ってるよ。」

きょとんとする麻流に悪戯な笑みを浮かべたカレンは、懐から手紙を取り出した。

「…これ!」

驚きながら一気に赤く染まった麻流の頬に、カレンは軽く口付ける。

「理巧が、くれたんだ。」

それは、麻流の遺書だった。

万が一に備え、婚約パーティーの前に理巧に託した物だ。

『ーカレンへー
あなたの前から、また姿を消してごめんなさい。でも、たとえ姿が見えなくても、あなたの思い出に住んでいるお母上や爺や様と一緒に、私もいつでもあなたの傍にいます。あなたは、ひとりじゃない。多くの人があなたを愛し、信じています。私も、あなたが必ず国を平和に、そして豊かにし、国民を正しく導く王になると信じています。そしてそれを、これからも私はあなたの傍でいつでも支えたい。私以外の王妃を迎えられたとしても、私はあなた専属の忍として、あなたを護り支えていきたい。だから、元気を出して、頑張って!』

カレンは、ぷっと笑うと、再び懐にしまう。

「ある意味、ストーカー?」

意地悪く言われた言葉に、麻流が白い肌を真っ赤に染めた。

「っな…!…でも、たしかに…。」

一瞬怒ろうとしたけれど意外に素直に認めた麻流に、カレンは目を丸くする。

「変わったな…麻流。ホンモノ?」

言いながら頬っぺたを引き伸ばすカレンに、麻流がもがきながら抗議した。

「ちょっ…やめ…!」

「うわ~♡相変わらずマシュマロみたいにふっわふわ♡」

そして頬にかぶりつこうとするカレンの頬を、麻流は思わず張り倒す。

「国王だろ!場所をわきまえろ!!」

麻流の言葉にカレンがようやく周りを見回すと、いつの間にか城門に女官や騎士たちが集まってきていて、久しぶりの二人のやりとりに瞳を潤ませていた。

「あ、みんな感動してるよ。だからオッケーオッケー♡」

相変わらずの軽い調子に、麻流はその腕から逃げ出す。

「全然OKじゃない!」

ドッとみんなが笑った瞬間、威厳のある声が響いた。

「しっかりしたと思っておったが、マルにはやはり甘えるのだな。」

麻流は慌てて跪くと、頭を下げる。

「ご挨拶が遅れまして…。」

「よいよい。もうおまえは私の娘なのだから。」

言いながらダナンは麻流の腕を取り、立ち上がらせた。

「よう戻ってきたな。」

ダナンは微笑みながら、麻流をそっと抱きしめる。

「…少しは成長したであろう?」

麻流はダナンの腕の中でしっかりと頷くと、カレンをふり返った。

「素晴らしい観光都市に発展していて、驚きました。」

そう、カレンはおとぎの国を観光都市にしたのだ。

道を整備し、街を花で彩り、国特有の歴史的建造物を世界にアピールして、観光を呼び込む改革を行った。