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【終】残念王子と闇のマル

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「雪の国王女、白雪でございます。」

優雅に頭を下げる可憐な姫に、楓月は首まで真っ赤になった。

「シラユキ…姫。」

カレンが小さく呟くと、白雪姫が顔を上げてにこやかに微笑む。

「お久しぶりでございます、カレン様。このたびは」

言いながら、麻流をチラリと見た。

「ご婚約おめでとうございます。」

気まずい空気に気がついた楓月が、カレンと白雪姫を見比べる。

「ありがとうございます。」

麻流が頭を下げると、白雪姫がにこやかに微笑んだ。

「従者のふりをしていらしたから、まさかこのようになられるとは。」

かつて、少しの期間だけカレンと関係を持った白雪姫。

過去にカレンと関係を持った姫君は皆、このパーティーに参加されず、それを知らない王や王妃のみが来ている。

それにも関わらず参加している王女は、白雪姫だけ。

カレンはその真意を測りかね、微かに警戒を滲ませる。

その様子に、楓月は二人の関係を鋭く見抜いた。

白雪姫の容姿に惹かれたけれど、堂々とカレンに挨拶するその様子に、背筋に冷たいものが流れる。

「お久しぶりに私と」

「姫、私がお相手致しましょう。」

白雪姫の言葉を、低い艶やかな声が遮った。

3人と白雪姫の間に立ち塞がるように、理巧が身を滑り込ませる。

「リク。」

可憐な笑顔を浮かべる白雪姫だけれど、その目は笑っていない。

「王子とはいえ、あなたは私の護衛をしていた身分。」

鈴を転がすような可愛い声だけれど、威圧的な言葉にその場が凍りついた。

完全に理巧を見下し拒絶した白雪姫は、カレンに再び向き直る。

「キース様が、帰って来られないのです。」

笑顔で紡がれた言葉に、カレンの顔から血の気がひいた。

関係を知らない楓月は、キースの名前が白雪姫から出てきたことに驚く。

理巧と麻流はさすがに忍らしく、表情が全く変わらないけれど、そんな反応を楽しむように白雪姫がカレンを上目に見上げた。

「もう、ご婚約者様以外とは踊れないのですか?」

甘えるように小首を傾げ上目遣いに見上げる白雪姫は、本当に愛らしく、会話が聞こえていない周囲には歓談しているようにしか見えないだろう。

カレンは気持ちを落ち着かせるように小さく息を吐くと、綺麗な笑みを浮かべた。

「独身の国王を差し置いて、売約中の私なんかで良いのですか?」

冗談めかして言いながら差し出された手を、白雪姫が優雅に取る。

「まだ、『お約束』の段階でしょう?」

楓月には目もくれずカレンだけを見つめる白雪姫に、薄ら寒い雰囲気を感じるものの、それを拒むことができない麻流は、ただ二人を見送るしかなかった。

ポツンと取り残された楓月と麻流、理巧が顔を見合わせていると、楓月の前におずおずと品の良い姫が歩み寄り一礼する。

「ね…眠れる森のオーロラでございます…。」

消え入りそうな声で挨拶をする様子は相変わらず清楚で、その純粋な姿に麻流はホッと息を吐いた。

「オーロラ姫…。」

楓月が呟くように名を呼ぶと、オーロラ姫の頬が一気に色づく。

そんな不馴れな様子に楓月は笑みを深め、優雅な動作でマントを翻し、手を差しのべた。

「一曲お相手願います。」

楓月が去り、その背を見送る麻流に、理巧が声をかける。

「私と踊りませんか?」

思いがけない誘いに、麻流がプッとふきだした。

「姉弟で?」

理巧もやわらかに瞳を三日月に細めると、麻流に手を差しのべる。

「最初で最後の思い出に。」

麻流は笑いながら頷くと、理巧にエスコートされてホール中央へ歩みだした。