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【終】残念王子と闇のマル

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そして空と聖華、その後ろに理巧が続き、紗那と馨瑠がそれぞれ幼い弟たちの手を引いて入場する。

「あの、銀のマスクをされているのが…リク様?」

「あんなに美しい人が…忍の頭領…。」

「セイカ様をエスコートされているのが、ソラ様か。」

「なんてお若い!王様のご兄弟にしか見えぬ!」

「カヅキ様…あんなに美しい王様、初めて見ました…。」

「双子の王女様方も、美しいだけでなく医師と薬師でいらっしゃるそうで…。」

「花の都の王族は、なんと美しく優秀なのだろう。」

「そこにおとぎの国のカレン王子が加わったら…まるで夢の世界のようだな。」

「かつては残念王子と悪名が高かったけれど、我が国に視察に来られた時は、そんな噂が信じられないほど誠実で、聡明でいらした。」

「たしかに。我が国でも、とても勉強熱心であった。」

「その時にリク様が護衛されてて、私はてっきりおとぎの国の騎士だとばかり思っておった。」

「カレン様をあのように変えられたのが、マル様らしいですね。」

「遊び人を180度変えるなど、並大抵ではできぬ。」

「でも、私もマル王女を得られるなら、側室など不要になりそうじゃ。」

口々に好きなことを言いながら、誰もがうっとりとした様子で両国の王族を見つめた。

「皆さま、ご着席ください。」

銀河の合図で皆が席につくと、雛壇の左右にある玉座に座る楓月とダナンが立ち上がる。

「戴冠と婚約という大きな節目を無事迎えることができ、皆に感謝致しております。」

楓月が短い挨拶の後ダナンを見ると、ダナンが言葉を継いだ。

「花の都は新たな王を迎えられ、我が国は新たな妃を得ることができ、この上なく嬉しく思っております。来月には我が王子カレンも戴冠し、婚儀を挙げ、いよいよ世界は新たな時代へと向かう。ぜひ、平和で豊かな世になるべく両国の同盟がゆるぎないものになると信じております。」

ダナンの挨拶に、拍手が起こる。

楓月はダナンに小さく頷くと、やわらかな笑顔で会場を見渡した。

「では、初披露となる我が弟妹をご紹介致します!」

先程までとはうってかわった楓月の明るい口調と笑顔に、賓客達の緊張もゆるむ。

「まずはご存知、おとぎの国王子、カレン。もう残念王子ではありません!」

思いがけない軽い紹介に、会場が一斉に沸いた。

「今では、我が妹だけを一途に愛し、国の発展のために武者修行に単身で出るような、熱い男です。まだ若干20歳でありながら、広い視野と冷静な判断力、寛容な心を持っているカレンはまさに王に相応しい。カレンのおかげでおとぎの国と同盟を結べたこと、そして妹の夫君として義兄弟になれること、大変嬉しく誇りに思っています。」

楓月の紹介に、カレンが椅子から立ちあがり、優雅に一礼する。

「次に、第一王女、麻流。」

楓月の言葉と同時に、カレンが麻流に手を差しのべ、麻流はエスコートされながら椅子から立ちあがった。

「麻流は、王女でありながら忍でもあります。」

カレンの紹介の時とはうってかわって、真剣な表情で見つめる楓月を、麻流もまっすぐに見つめ返す。

「忍という特異性からこれまで公表されなかった妹は、我が国のために、この10年間、命を削ってきました。紆余曲折を経て、ようやく幸せを掴むことができ、兄としてホッとしています。」

楓月は会場に集まっている各国の王族をゆっくりと見渡すと、表情をひきしめた。

「我が父、空は、星一族の前頭領です。父はひとりで27年間、忍の一族を率いてきましたが、私の王位継承を機に退き、新たに麻流と第二王子理巧が後を継ぐこととなりました。」

楓月の紹介で、一段低い雛壇から理巧が立ち上がる。

「麻流は、おとぎの国へ星一族を連れて行き、おとぎの国の星一族の頭領となります。」

その瞬間、会場が大きくどよめいた。

「麻流は父と同じように、王妃でありながら忍の頭領となりますが、ひとつ違うところがあります。」

どよめきを打ち消すように声を張り上げた楓月の言葉に、再び会場は落ち着きを取り戻す。

「理巧は、花の都の星一族の現頭領ですが、この二人の率いる星一族は、自国の防衛にのみ当たります。」

会場の各国の王族たちが怪訝そうに顔を見合せる中、楓月が不敵な笑みを浮かべた。

「今までのように他国からの依頼は受けず、近衛として防衛に当たるため、我ら二国の防衛力は世界一となるでしょう。その代わり、外部からの攻撃さえなければこちらから侵略することは一切ないことを、ここに約束致します。」

楓月の言葉に、ダナンとカレンも大きく頷く。

実は賓客の中に、今回の婚約を阻止しようとしていた関係国の王族もおり、互いにひそひそと言葉を交わすのが楓月から見えた。

楓月はまっすぐにその王族たちを見下ろすと、威圧的な笑顔を浮かべた。

「星一族のおかげで、これからは我が国と同盟国となった国すべてから、戦争の惨劇をなくし、世界平和をもたらすことができるようになります。これからも国の平和と発展を共に目指して参りましょう。」

楓月の視線と言葉の意図に気づいた関係国の王族たちは、険しい表情で視線を逸らす。

そんな王たちを見て小さく鼻を鳴らした楓月は、再び人懐こい笑顔に戻り、双子の姉妹や幼い弟二人をおもしろおかしく紹介し、会場の雰囲気を和ませた。

「乾杯!」

太陽の音頭で会食が始まると、楽団の生演奏でホールが一層華やぐ。

「おめでとうございます。」

雛壇に次々と各国の王族が祝いに詰めかけ、楓月の正妃の座を狙う紹介が後を絶たない。

「もしお決まりの姫がいらっしゃらなければ、ぜひ一曲、我が姫と」

「いやいや、そちらは年上ではないか!我が王女なら、20歳になったばかり。」

「若ければ良いというものではない。楓月様に見合った才があるかどうかが重要じゃ。そこでいけば我が王女は高学歴で」

「勉強ばかりでおもしろみのない女など」

集まった各国の王達にだんだんと不穏な空気が流れてきたところで、空が口を挟む。

「一番重要なのは…どんだけ愛し合えるか、じゃね?」

銀のマスクで顔半分覆いながらも、その美しさと妖艶さが溢れ出る空に、皆が息をのんだ。

「こいつが命懸けで愛して、相手からも愛されるなら、別にどっかのお姫様じゃなくてもウチはいいんだけど。」

空の言葉で、楓月に迫っていた王達のテンションが下がる。

「楓月、好みのお姫様いた?」

空がからかうように斜めに見ると、楓月が照れたように顔を逸らした。

「いたんだ。」

ニヤリと笑った空は、銀河に視線を送る。

すると銀河が楽団に合図し、音楽がワルツに変わった。

「行ってきなよ。」

雛壇の下から見上げてくる空に、楓月は頬を染めながら小さく頭を下げると、玉座から降りる。

カレンも立ち上がると、麻流を誘った。

独身の美しき新王と、パーティーの主役二人がダンスに加わるとなり、会場が一気に盛り上がる。

「お目当て、どの姫ですか?」

麻流がからかうように楓月を見上げると、楓月が目を逸らした。

「…んなの、いねーよ。」

明らかにごまかす口調で小さく呟く兄にカレンと麻流が声をあげて笑っていると、ひとりの姫が前に立ち塞がる。