赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 66~70
『つべこべ言わず、頑張ってちょうだい、たま。
この状態を見れば分かるでしょ。いまはあなただけが頼りなの。
ピーナツを頼りに、避難小屋まで戻れるかどうかの、ぎりぎりの
瀬戸際なのよ』
『そう言うけどなぁ。犬とは違うんだぜ、おいらは』
『じっとこのままこうしていても、助かる見込みはない。
たぶん、この天候は回復しない。
待っていても、時間とともに悪化していくだけ。
助かる道はただひとつ。
自力で、尾根道の先にある避難小屋まで戻るしかありません。
それともなにか、おまえさんは、ここでのたれ死んでイヌワシの餌にでも
なりたいというのかい?』
恭子のするどい眼が、たまを覗き込む。
『イヌワシの餌だって。冗談じゃねぇ。さすがにそれだけは、勘弁だぜ』
おいらまだ、こんなところで死にたくねぇと、たまが首を振る。
『じゃあ素直に、あたしの言うことを聞くんだね。
いま頼りになるのは、お前さんの嗅覚だけだ。
嵐がひどくなる前に避難小屋へ戻ることができれば、わたしも清子も助かる。
おまえも、イヌワシの餌にならずに済む』
『でもよう、ちょいとした問題が有るぜ。
たしかに猫は人間に比べれば、数万倍~数十万倍の嗅覚をもっている。
だけど。餌の匂いをかぎわけるのに、特化してるんだ。
おいらが捨てたのは、大嫌いなピーナツだ。
できることなら、2度とピーナツの匂いなんか嗅ぎたくねぇ。
それでも探せというのは、立派な児童虐待だ・・・』
『生きるか死ぬかの瀬戸際だ。
児童虐待だろうが、動物虐待だろうが、いまは関係ない。
四の五の言うのなら、イヌワシの餌になるまえに、わたしがお前を
八つ裂きにする。
どうだたま。どちらでも好きなほうを選べ。
素直にピーナツの匂いを探して、避難小屋へ戻る路を探すか。
それともわたしに八つ裂きにされて、イヌワシの餌食になりたいか。
どちらでもよいぞ。好きな方を自由に選ぶがいい!』
『わっ、わかった。わかったよ。しょうがねぇなぁ。ピーナツの匂いを探す。
そのかわりおいらにもひとつだけ、交換条件が有る』
『なんだ。交換条件って。いいだろう、言って御覧。
この際だ。どんな条件でもいい、聞いてあげようじゃないか』
『Bカップの清子の胸じゃなくて、Dカップの恭子の胸に入れてくれるなら、
一生けん命、ピーナッツの匂いをかぎ分けてやってもいいぞ』
『清子より、わたしの胸のほうがいい?。
お安い御用だ。
ほら、おいで。ただしわたしのヤッケにポケットはないから、
セーターの中だ。
それでもいいのなら、ほら、潜り込んでおいで』
(68)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 66~70 作家名:落合順平