リードオフ・ガール 2
「さてと……みんなご苦労さん、準優勝だ、しょげる事はないぞ、だが当然悔しい気持ちもあるだろう? それが君たちを成長させてくれるんだ、この大会を通じて自分の良い所も課題も見つかったんじゃないかな? それぞれ一言づつ言ってみてくれ、打順と同じで一番の由紀からな」
光弘を囲むようにして車座となってのミーティングが始まった。
「叩き付けるバッティングはできてきたと思います、バントする場面はなかったですけど、内野は以前より下がるようになりましたから、きっと上手くできるんじゃないかと……守備では相変わらず中継が頼りですけど、前よりは送球も良くなったと思います」
「そうか、キャプテンは最後にして、達也は?」
「ミートに徹したバッティングは出来てたと思います、でも、ランナーがいないとちょっと大振りになってたかも……サードの守備はエラーしないで良かったですけど、もうちょっと上手くならないとと思います」
「うん、幸彦は?」
「後ろに慎司が控えてるんで、大きいのを狙わなかったのが良かったかなと思います、二塁打は結構打てましたし……ファーストの守備はまだまだですね、セカンドが新一なんで助かってますけど」
「次、慎司」
「長打は結構打てたけど、打率はちょっと低かったかなぁ……レフトの守備は由紀の守備範囲が広いんで助かります」
「和也は?」
「前で慎司さんが大きいの打つんでちょっと力が入りすぎたかも……昨日まではまあまあ良かったと思うんですけど、今日は全然打てなくて……」
「次は新一」
「守備では貢献できたと思います、でもバッティングはまだまだですね、ロングヒッターってタイプじゃないから、由紀さんや英樹さんのバッティングを参考にして打てるようになりたいです」
「明男はどうだ?」
「打つ方がからっきしなのはみんなに申し訳ないと思ってます、リードも今日はもう一工夫できなかったかなと……雅美を落ち着かせられなかったし、良輝が打たれ始めたらどうして良いかわからなくなっちゃいました」
「次はピッチャーだな、雅美から」
「今日はごめんなさい、疲れててなんかボールが高く行っちゃって……全然アウトが取れなくて焦っちゃって……」
「1/3イニングだけだったが、勝はどうだ?」
「やっぱりコントロールです、今のままじゃダメだってはっきりわかりました」
「良輝は?」
「やっぱりスタミナですね、監督に走るように言われてたのに……春までにはもっと走りこみます」
「うん……最後にキャプテン、英樹」
「自分の事を言うなら、目標にして来た事は出来たと思います、ただ、もう少しバッティングに幅ができるといいんでしょうけど……あと、今日の負けなんですけど」
「キャプテンから見て敗因はどこだと思う?」
「みんなが、『自分がなんとかしよう』と思いすぎたような気がします、雅美は調子が悪いなら悪いなりにもっと低目を狙って打たせて取る事を考えた方が良かったんじゃないかな、良輝は一回からのロングリリーフで良く頑張ったと思うけど、自分でも言ってたようにスタミナ不足はあったよな、例えば良輝が長いイニングを投げられるなら雅美を休ませることもできたかもしれないし、何となれば良輝に任せられると思えば、あそこまで自分を見失わないで済んだと思う、由紀は今日走塁ミスしたよな、3回の攻撃ではホームを狙うべきじゃなかった、レフトはかなり前に出てきてたからな……もっとも、それは俺が大きいのを打てないってわかっててそうしてたんだろうけど、自分の足の速さを過信した気がする……達也は幸彦に繋ぐバッティングができてたし、幸彦は後ろに慎司がいるから大振りしなかったよな、慎司はもう少し和也を信用しても良かったように思う、勝ってる時は良かったけど、今日は『俺がホームラン打ってやる』って思ってなかったか? 新一は守備ではすごく貢献してくれてると思う、野球センスは抜群だから打つ方もがんばればきっと良くなると思うんだ……明男はリードを自分のせいって言ったけど、内野がマウンドに集まった時、どんな話をしてる? がんばれとか言うだけじゃなくって、皆が気づいた事を言い合うのは大事だと思う、明男も自分ひとりで悩まないで皆の意見を聞いたら良いんじゃないかな」
英樹が喋り終わると、皆が声を失った。
言われて見れば思い当たることばかり……逆に言われなければ気づかないことが多かったからだ。
その沈黙を破ったのは光弘だった。
「さすがキャプテンだな、お前をキャプテンに指名して良かったよ……俺から言う事は何もない、みんな英樹に言われちゃったよ」
そう言って笑顔を見せると、ようやくナインの顔も緩む。
「皆にばかり言わせて、俺が反省しないんじゃ不公平だよな……俺も反省しなくちゃいけない事はいくつもあるよ、そもそも雅美の疲れを見抜けなかったのは俺が悪い、ボールを挟む親指と小指に力が入らなかったんじゃないのか?」
「あ、はい、何だかすっぽ抜けちゃって……」
「だろ? それを見抜けないで前日までの勝ちパターンをそのままやろうとした俺も能がないよ……今年の試合はこれで終わりだけど、3月には市の予選、6月には県予選、8月には全国大会があるんだ、勝ち進むと連戦は免れないからな、そこはこの冬の宿題だ……今、さらっと言ったけど気がついたか? 俺はこのチームを全国大会まで行かせたい、行けるチームだと思ってるんだ、一冬を過ごした君たちがどこまで成長しているか楽しみにしてる、何かわからないこと、迷うことがあれば何でも俺に言って来てくれ、いいな? 来年は全国まで行くぞ!」
その決意を聞いたナインの顔、それはもう負けてしょげている顔ではなかった。
作品名:リードオフ・ガール 2 作家名:ST