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リードオフ・ガール 2

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 秋、スポーツには好適な季節だが、長い休みがなく、学校行事も盛りだくさんなので大きな大会は開催されず、市民体育祭が唯一の公式戦、新生サンダースはその少年野球の部に出場した。
 新チームになっているとは言っても、前年度優勝チームで、全国大会まであと少しのところまで迫ったサンダースは注目の的、一回戦から市営グラウンドの小さなスタンドは観客で埋まった。
 当然、ブルペンでウォームアップを始めた雅美に視線は集まるが……。
「おいおい、先発ピッチャーは女の子かよ」
「いや、小学生では男の子と身体能力にあまり差はないぞ、現に夏の県大会じゃ川中由紀ちゃんが大活躍だったろう?」
「だけど、先発のあの子、スピードもあんまりないぞ、平凡なピッチャーにしか見えないけどなぁ」
 どうもあまり評価は高くない、そして相手チームもそう感じていた。

「プレーボール!」
 主審の手が挙がって試合開始、雅美の第一球は真ん中やや低めの、何の変哲もないストレートに見える。
(貰った!)
 相手の1番バッターは充分に引き付けてスイングしたつもりだったが、途中で失速するボールに泳がされ、バットは空を切った。
(なんだ、見た目より遅いぞ、伸びがないんだな)
 そう思って、2球目をもう一呼吸引き付けてスイング、しかし、バットの下っ面に当ったボールは足元へのファールになった。
(捉えたと思ったんだけどな……)
 そう思いながら3球目を待つと真ん中高めのストレート。
 今度こそ、と思う間もなく振り遅れてバットは空を切った。
 
 結果的に言えば、相手チームが雅美はナックルボーラーなのだと気付いたのは打者一巡をパーフェクトに抑えられてからだった、しかもキャッチャーの明男は、バッティングはともかく、守備とリードにかけては去年のキャプテンだった敦にも劣らない、雅美にとっては頼もしい『女房役』なのだ。

 そしてサンダースは1回の裏に一気に試合を決める攻撃を見せた。
 先頭の由紀は叩きつけるバッティングでショートゴロ、俊足の由紀が高いバウンドのゴロを放てば、内野手は思い切り突っ込んでショートバウンドで捕球して体勢を整える間もなく素早く送球しなければ間に合わない、並のショートにはできない芸当だ、由紀は楽々と一塁ベースを駆け抜けた。
 2番の英樹はボールを良く引き付けてジャストミート、打球は一、ニ塁間を破り、ライト前へ、ライトがボールを掴んだ時、由紀はすでに二塁ベースを大きく廻っていてノーアウト一、三塁。
 3番・達也の打球はピッチャーが思わずしゃがみこむような痛烈なセンター前ヒット、由紀が楽々ホームインして1点先制、なおノーアウト一、ニ塁。 続く4番・幸彦が左中間を破る二塁打を放ちランナーを一掃して3-0とすると、5番・慎司も三遊間を鋭い打球で破り一、三塁、そして6番・和也の二塁打で5-0。
 実質的にそこで勝負は決まった。
 雅美はノーヒットのおまけ付きで4回をゼロに抑え、二回以降も着々と追加点を挙げたサンダースは4回コールド勝ちを収めた。

d (>◇< ) アウト! _( -“-)_セーフ!  (;-_-)v o(^-^ ) ヨヨイノヨイ!!

 二回戦の相手は中々の好投手だったが、由紀と英樹の脚を止める事は出来ない、強力クリーンアップに加えて6番にも和也が据わる打線が大物を狙わずにミートに徹すれば、それを止める事は難しい。
 石川雅美がナックルボーラーだと言う事は1回戦で一躍知れ渡ったが、ほとんどの選手が初めて見るナックルボール、あれよあれよと言う間に討ち取られてしまい、スコアボードにはゼロが並ぶ。
 そして、2試合目にしてクローザー・五十嵐良輝の登場だ。
 1~2イニングであればスタミナも切れず、ムラッ気も起こさずに乗り切れる、70キロのナックルボールに翻弄された相手打線が110キロのストレートにバットを合わせられる道理もない。
 サンダースは貫禄すら見せ付けて3回戦、準決勝と勝ち上がった。

d (>◇< ) アウト! _( -“-)_セーフ!  (;-_-)v o(^-^ ) ヨヨイノヨイ!!

 そして迎えた決勝。
 サンダースのナインには知らず知らずの内に慢心が芽生え、先発の雅美の右腕には疲労が残っていた。
 親指と小指で挟むナックルは握力を必要とし、4~5イニングも投げると腕が張ってしまう、あくまで筋肉疲労だから休めば元に戻るのだが、二日間の連投は厳しい。
 充分な力で挟めないナックルは高めに浮き、中途半端な回転がかかってしまうと予想外の変化も起こらない、打ち頃のボールとなってしまうのだ。
 一回の表、一、二番に連打を許した雅美は、慎重になりすぎて三番を歩かせてしまい、四番には高めに浮いたナックルを痛打されて3点を先制されてしまう。
 ナインはマウンドに集まったり声を掛けたりして雅美を励ましたが、動転した気が治まらない雅美は連続フォアボールを出してしまう。
 正直な所、少なくとも三回くらいまでは雅美に託したい所なのだが、すっかり自信をなくしてしまったように見える雅美をそのまま続投させるわけには行かない、光弘は腰を上げて主審に告げた。
「ピッチャー、五十嵐良輝に交代します」
 一冬を越せば良輝にもスタミナを付けさせる事は出来るだろうが、今はまだ七回を投げきるスタミナはない、が、ここはもう良輝に託す他はない。

 幸い、良輝は期待に応えて後続を三人で切って取ってくれ、サンダースは3点を追う展開に。
 相手チーム、ウィングスのエースは凄みこそないが丁寧にコーナーを突く技巧派、大崩れする事はなく、守備も固いのでこつこつと追う外はない。
 叩きつけるバッティングで由紀がランナーに出ると、英樹が一、ニ塁間に強いゴロを放つ。
 サンダースの得意パターンだが、さすがに決勝まで残るチーム、セカンドは倒れ込みながらも好捕、由紀は三塁まで進んだものの、英樹は出塁できなかった。
 ワンナウト三塁から3番・達也の外野フライで1点を返す、しかし、4番・幸彦の大きな当たりはレフトの好守に阻まれた。
 3回の裏はツーアウトから由紀に打順が廻って来た、フォアボールを選んで塁に出た由紀は盗塁を決めるが、英樹のレフト前ヒットでホームを狙ってタッチアウト。
 6回の裏、ようやくクリーンアップにヒットが繋がり、同点に追いつくが、7回の表、5回頃から疲れが見え始めていた良輝が捕まった。
 1番を歩かせてしまい、2、3番はなんとか討ち取ったものの、4番にホームランを喫して2点のビハインド。
 光弘は良輝を諦めて勝をマウンドに送るが、フォアボールを絡めて更に1点を失ってしまった。
 そしてその裏、7番から始まるサンダースの下位打線にはその3点をはねかえす力はなかった。
 由紀はネクストバッターズ・サークルでサンダースの敗戦を茫然と見守った。

d (>◇< ) アウト! _( -“-)_セーフ!  (;-_-)v o(^-^ ) ヨヨイノヨイ!!
作品名:リードオフ・ガール 2 作家名:ST