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⑩残念王子と闇のマル

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つながる運命と縁


懐かしい内装を、カレンは目を細めて見回す。

麻流はそんなカレンの様子を、抱かれたままジッと見つめていた。

慣れた様子でカレンは冷蔵庫を開けると、水を取り出す。

「飲む?」

笑顔で麻流に水を掲げると、麻流が苦笑した。

「私の部屋のですけどね。」

そんな麻流にカレンは無邪気に微笑み返しながら、蓋を開ける。

「いただきます♡」

そして一口飲んで、妖艶に麻流を見た。

麻流が鼓動を高鳴らせた瞬間、もう一口含んだカレンに後頭部を引き寄せられて口付けられる。

「ん…!」

口移しで与えられた冷たい水を、麻流はごくりと飲み込んだ。

「…まだ、いる?」

麻流の口の端にこぼれた水を親指で拭いながら、カレンが訊ねる。

「…。」

麻流はカレンと視線を交わした後、その首にぎゅっとしがみついた。

首に触れる麻流の頬が、熱い。

カレンはそのまま押し倒したい衝動をなんとか抑えながら
、浴室へ向かった。

湯船にお湯を張りながら部屋へ戻ると、クローゼットを開ける。

「!」

そこには、麻流の服に混じって、カレンの服がそのまま残されていた。

「…これ…。」

わざと、残していっていたカレンの服。

処分されているだろうと思っていたのに、そのまま残されていて、カレンは言葉が出ない。

「なぜ、男物があるのか…不思議でした。」

麻流はするりとカレンの腕から降りると、その服を手に取った。

「異国の織り物で、華やかで、明らかに王族の衣装で…見ると痛いほどに胸が切なくしめつけられて、こうやって手に取ると、抱きしめたくなる…。」

言いながら、ぎゅっと胸に抱く。

「何度も捨てようと思いましたが…これを捨ててしまうと、もう私は完全に壊れてしまう、と思い…ずっとここに置いておきました。それから」

麻流は服を抱いたまま、懐からビロードの小箱を取り出した。

「これも。」

開けると、そこにはエメラルドのピアスと金のピアスが入っている。

「頭では覚えていないのに、心が、体が、痛いほど反応するんです。」

カレンは麻流の持つ小箱を、くいいるように見つめた。

そんなカレンの耳たぶに、麻流はそっと触れる。

そこには、黒水晶のピアスがあった。

もう片方には、エメラルドのピアス。

「…。」

麻流は音を立てて小箱を閉じると、自分とカレンの着替えを手早く用意して、カレンの手をそっと引いた。

「お先にどうぞ。」

脱衣所に二人の着替えを置くと、麻流はそのまま出ていこうとする。

咄嗟にその手を掴んだカレンは、真剣な面持ちで麻流を見下ろした。

「一緒に入ろう。」

麻流はそんなカレンの澄んだエメラルドグリーンの瞳を真っ直ぐに見上げると、耳まで赤くなりながら首を左右にふる。

「どうして?」

カレンが麻流を逃がすまいと引き寄せると、麻流はあえてカレンの胸にとびこんだ。

「…明るいところは、嫌です。」

顔を隠すように胸に埋めてくる麻流を、カレンは抱きしめながら浴場の灯りを消す。

それでも身を固くする麻流の耳や頬、首筋に優しく口づけながら、その小さな身に背負う暗器類を外し下ろした。

「…っ!」

カレンが忍服の袷に手をかけると、麻流が瞬時にその手を止める。

「自分で脱ぎたい?」

艶やかな表情で顔をのぞきこまれ、麻流は恥ずかしさのあまり顔を逸らした。

そんな麻流の唇にカレンは優しく口づけると、背中を撫でて緊張をほぐしながら、ゆっくりと服を脱がせていく。

最後の一枚が乾いた音を立てて床に落ちたとき、暗闇の中、麻流はカレンを見上げた。

「こんな体で、ほんとにいいんですか?」

『こんな体』とは、傷だらけの身体のことなのか、それとも…。

カレンはそんな麻流をジッと見下ろすと、真っ直ぐにその瞳を見つめ返した。

「じゃ、これは?」

言いながら、自分の服を一気に脱ぎ捨てる。

露になった白い肌には、暗闇の中でもハッキリとわかる怪我を無数に負っていた。

そこには今回の千針山で負ったものだけでなく、比較的古そうな傷もたくさんある。

実は、理巧との旅の道中、カレンは色んな苦難や危険に遭遇していたのだ。

それはカレンが荒れており、自ら招いたことが殆どだけれど…。

「…!」

麻流が驚いて見上げると、カレンは悪戯な笑顔でどこまでも甘く麻流を見つめる。

「おそろい♡」

「…っ!」

麻流は瞳を潤ませながら唇を引き結ぶと、首を左右にふった。

「…そんなことじゃ…」

「じゃ、任務でのこと?」

カレンは身を屈めると、横から麻流の顔をのぞきこむ。

耳元で囁かれ、麻流は頬を赤くしながら顔を逸らした。

その小柄な体は小刻みにふるえ、全身から不安が溢れている。

「マル。」

カレンは、麻流の耳たぶに口づけを落とした。

そこには、黒水晶のピアスがついている。

「答えを忘れたなら、思い出させてあげるよ。」

カレンはぎゅっと麻流を抱きしめると、そのまま抱き上げてシャワーへ向かった。

「でも、まずは洗いっこから♡」

おどけて言いながら、麻流の頭をガシガシと洗い始める。

「…やっ!もっと優しくしてください!」

麻流が身動ぐと、カレンは明るく笑いながら石鹸を泡立てた。

「じゃ、優~しくね♡」

そしてその言葉通り、真綿でくるむように優しく泡で麻流の体を洗う。

「…ぁ…っ」

愛撫するように洗われ、思わず麻流が甘い声をあげた。

「まだ、誘わない。」

カレンは麻流の唇に軽く口づけを落とすと、くるりと背中を向ける。

「僕も洗って♡」

言いながら床に腰を下ろすカレン。

麻流は少し躊躇ったけれど、ふるえる手でカレンの頭にそっと触れた。

「っ痛!」

その途端、カレンが小さく叫んで肩をすくめ、麻流は瘤のことを思い出す。

「すみません!」

思わず身を引いた麻流の手首を、カレンが素早く掴んだ。

「大丈夫。忘れてたから、ビックリしただけ。」

言いながら、麻流の手を口元に持っていって、口づける。

「洗って。」

口づけたまま上目遣いで妖艶に頬笑むカレンに、麻流の心臓は一気に跳ねあがった。

誘うようなその色香に、麻流はくらりと目眩がする。

「…自分は誘うんだ…。」

小声で愚痴る麻流に、からっと笑いながらカレンは背中を向けた。

逞しい背中と暗闇でも輝く金髪に、麻流の鼓動は優しく高鳴る。

その背中に抱きつきたい衝動を必死で抑え込みながら、麻流は優しく頭に触れた。

「気持ちい~♡」

カレンは、気持ち良さそうに目を瞑る。

麻流が体も丁寧に洗い始めると、カレンは大きなあくびをした。

「あ…ごめん。」

口もとをおさえながら、カレンが照れ笑いを浮かべる。

麻流は首を左右にふると、ついに後ろからカレンの首に抱きついた。

「まだ、誘わないってば。」

カレンは小さく笑いながら、麻流の腰に腕を回して横抱きにし、そのまま湯船に浸かる。

温かい湯船に、長く身を伸ばすカレン。

その胸に頬を寄せた麻流は、そっとカレンの鼓動に耳を澄ませた。

懐かしい、心地よい鼓動が聞こえ、麻流はゆっくりと息を吐く。

「なんか…久しぶりにホッとする…。」
作品名:⑩残念王子と闇のマル 作家名:しずか