⑩残念王子と闇のマル
「そうだな。これ以上は空の負担になる。」
「ゆっくり休んで、兄上。」
銀河と太陽に続いて、理巧と麻流も立ちあがり、両親に頭を下げる。
カレンも空へ頭を下げると、聖華に向き直った。
「私も、失礼致します。」
「カレン…ありがとう。」
聖華は瞳を潤ませながら静かにお礼を言い、カレンはゆるく首をふりながら笑みを返す。
そして、皆で廊下へ出た。
「とりあえず、一安心…だな。」
銀河が深くため息を吐く。
「体のことは、これから考えたらいいし。命さえあれば、どうとでもできるから。」
太陽も疲れた様子ながら、安堵した表情で頷いた。
そこへ、紗那と馨瑠も部屋を出てくる。
「とりあえず、また明日~♡」
紗那はあくびをしながら、隣の部屋へ馨瑠と入って行った。
「カレンは、自分の部屋わかってんだろ?」
楓月に訊ねられたカレンは、一瞬麻流を見る。
「私がご案内します。」
麻流は無表情で返し、先導するように踵を返した。
「!…では、また!!」
カレンは銀河達に頭を下げると、身を翻して麻流の後を追う。
その後ろ姿を銀河と太陽、理巧は無言で見送り、二人の姿が見えなくなると顔を見合わせた。
「…結局こうなるのかー。」
太陽のぼやきに銀河も首を鳴らしながら頷く。
「空も麻流も、心配させるだけさせて…。」
そんな銀河の肩を揉んでやりながら、太陽が笑った。
「ほんとお騒がせな親子ですよね、まったく。」
銀河は肩をすくめながら、歩き出していた理巧の背中に声をかける。
「理巧も苦労するな。」
理巧は足を止めると、口元のマスクを外してふり返った。
「…。」
言葉は発しないけれど、その表情は見たことがないほど柔らかく、嬉しそうだった。
理巧はそのまま二人に頭を下げると、姿を消す。
「…空、だな。」
「…うん。空そのものだね。」
兄弟二人は納得し合うと、肩を並べてそれぞれの私室へと戻って行った。
麻流は、王族の私室が並ぶ通路へ進む。
「…こっち?」
てっきり客室へ案内されると思っていたカレンは、戸惑いながらその背を追いかけた。
「どうぞ。」
冷ややかな口調で開けられた扉は、麻流の私室だった。
「…え?」
思わず、カレンは部屋の前で立ち止まり躊躇う。
「…。」
カレンを試しているのか…、感情の読めない表情で見上げてくる麻流の顔を、カレンは探るように見つめた。
「…客室のほうが、いいですか?」
そう言いながら扉を閉めた麻流が、無表情ながらなんとなく悲しそうに見え、カレンは麻流の前に屈む。
そして、真っ直ぐに黒水晶の瞳を見上げ、その真意を探ろうとした。
けれど忍特有の無機質な瞳からは、やはり何も読み取れない。
「…僕を受け入れる、ってこと?」
下からカレンに覗き込まれ、真っ直ぐな言葉で問われた麻流は、一気に頬をリンゴ色に染めながら、そのエメラルドグリーンを見つめ返した。
「…。」
カレンは、上目遣いで麻流をジッと見つめる。
「…抱いてもいい、ってこと?」
真剣な眼差しのまま更に素直に問われ、麻流の顔はますます赤く染まった。
「…。」
麻流は唇をきゅっと噛むと、ズボンを握りしめる。
いつものにこやかな笑みを消した、真剣な表情のカレンが麻流の返事をジッと待っていると、麻流が身動いだ。
そして次の瞬間、カレンの体にふわりと温もりが舞い降りる。
「!」
息をのんだカレンの首に、麻流が抱きついていた。
小刻みにふるえながら、カレンを無言でぎゅっと抱きしめてくる麻流を、カレンも力強く抱きしめ返す。
カレンはそのまま抱き上げると、麻流の私室に入った。
作品名:⑩残念王子と闇のマル 作家名:しずか