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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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美しさをとどめていてほしい

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万引き遊び



 教師を早期退職した私は、まだ62歳である。退職するときの理由は自分のために生きたい。旅に出たり、山に登ったりと希望があった。だが2年経ってみると、それはあまりにも自分勝手だったと分かった。退職金と年金や貯蓄で経済的なことは心配ないと考えていたが、旅行や登山はかなりの出費であったようだ。そのことに私が気が付いたのは、妻の言葉からであった。
「2人で家にいても仕方ないわ。私は仕事をしてみたい。あなたは今まで働いたから、今度は私が働くわ。人生先は長いから、お金は今のうちに稼がないと」
「早期退職わがままだっただろうか」
「気にしないで、働きたいのは私のわがままなの」
 妻はコンビニで働き始めた。教師も10年ほど勤めた妻だったが、子ができたので退職を私が勧めた。だが死産であった。大学卒の妻はパソコンが手馴れていたからコンビニでの仕事はすぐに慣れた。
 勤めて2か月もしたとき
「高校生の万引きを見つけたの。チョコを2個手提げの紙袋に入れたのよ。品出しの番で、休憩の後だったから、まだ私服だったから、客だったと思っていたのかも、レジには同じチョコを2個出して会計した。私、店長に言ったわ。紙袋の中にチョコが入っているって」
休憩室に連れていかれ
「ありがとう。でも、大目に見ているから、この店は高校生で成り立っているから、オーナーがそういう方針だから・・以前万引きを見つけて、学校に報告したら、学校の評判が悪くなるから、お宅の店は立ち入り禁止にしましょうと言われ、万引きはなかったことで済ませてそうです」
「防犯カメラでもわかることですし、そんなことを許したら、絶対によくないわ」
「それはオーナーに言って下さい」
妻は誰かに言って自分の正義を認めてもらいたかったらしい。
 私はそれとなく、妻の勤めているコンビニに行ってみた。高校教師をした経験者として、気になることであった。
 午後4時30分。部活をしていない生徒たちの下校時間であった。私は雑誌を見ながら、店内も見ていた。生徒指導の経験も5年ほどあった。学区内の生徒指導の関係者が、年に5回ほど電車内での喫煙やゲームセンターなどの深夜徘徊など巡回した経験が役に立った。
 3人の学生がガラス戸を開け、ペットボトルを2本紙袋に入れた。1本をレジに持ち込み、その中の1人が会計をした。あまりにも堂々としていて、彼女たち3人の行動は少しも悪びたところがなかった。
 私は彼女たちが店を出ると後をつけた。笑いながら飲み物をそれぞれが飲み始めた。
「君たち、何か店の中に忘れ物しただろう」
「何か忘れた」
3人がお互いに言った。
「別にないけど」
同じように3人が言った。
「きっとあるから思い出して欲しい」
「おじ様何か勘違いしているよ」
「この飲み物、1本買ったのに、3人がそれぞれ飲んでいるのが不思議だって顔してるよ」
「おじ様こんなものどこの店でも売ってるの知らないのかな。レシート見せてやろうじゃないか」
彼女たちの1人が財布からレシートを取り出した。
私は彼女たちの計画的な犯罪に、許しがたさを感じながらも、あどけなさをも感じた。
「ただで商品を手に入れることは万引き。見つからないことより早く見つかったほうが自分たちにはきっと良いことだから、おじさんの言葉覚えてくれるかな。君たちが得をした分誰か困っているのだからって忘れないで」
「おじ様私たちのこと疑っているの」
「見てしまったから」
「おじ様うぶなんだから、許してあげるよ。私たちのしたこと、万引き遊びよ。万引きって疑ったら、名誉棄損で訴えるっていうのよ。在庫を調べたらわかることだし、お店の信用問題だから、1万円くらいになるのよ」
 私は今どきの若者の考えることにますます苛立ちを感じた。