天国に咲く花
「ここまでが奈津美さんが知っていることよ。健太くん、大丈夫?」
「…………」
「そうよね。言葉が出ないわよね」
桃はそう言って少しの間を取ってから、話を続けた。
「でも、これから話すことをよく聞いて。このことはお父さんには知らせないこと。お父さんのためだけでなく、お母さんのためにもね。
お母さんはお父さんにとても申し訳なく思っているの。だってお父さんはとてもいい人だから。それなのに、いっときとは言え、お母さんは他の人を好きになってしまった。とてもいけないことだけどどうしようもなかったのだと思う。お母さんと相手の人は、それをわかっていたからもう会わなかった――
それで許してあげて。せめて、あなたたちがもっと大人になってからだったら、違った受け止め方もできたでしょうにね。
あ、それから大切なこと! 奈津美さんは間違いなくお父さんの子よ。学校の研究課題とか適当な理由をつけて、お父さんと奈津美さんのDNA鑑定をしてもらうといいわ。私の言葉では意味がないでしょうから、科学的に証明してもらうことね」
徐々に冷静さを取り戻した健太が聞いた。
「母はなぜ、そんな大きな秘密を書き残したりしたのでしょう?」
「それはたぶん、お父さんへの罪悪感から、その箱の中に自分の気持ちを封じ込めたんじゃないかしら。名前さえ知らずに別れた、お母さんにとって大切な思い出だったのよ、きっと。
誰にでも人に言えない秘密というものが、ひとつくらいはあるものよ、歳を重ねればね。それにお母さんは急死だったんでしょ? 運が悪かったのよ。できることなら、もちろん処分していたに違いないわ」
ひと月ほどして、潤がやってきた。
「姉さん、この前はありがとう。姉さんの言う通りだったよ。奈っちゃんはお父さんの実の子だった。それがわかったからって、奈っちゃんの心がすぐに元通りというわけにはいかないだろうけど、どうやら日常生活は戻ったみたいだよ」
「そう、それはよかったわ。でも、思春期に母親を女として理解するというのは無理な話よね」
「うん、それに、おじさんが何だかかわいそうな気がするな……」
「知らなければなかったことと同じよ」
「そうかなあ?」
「そうなの! それで潤、進路はどうするの?」
「ええと、それは……」
姉弟の会話はぎこちなく続いた。