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天国に咲く花

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引き寄せられる人たち(三)


 その朝いつものように、桃は天国の花に水をやりに草の生い茂った獣道を下っていた。小鳥はさえずり、はるか下の方には小川がキラキラと光るのが見えた。
 秘密の場所に着くと桃は
「あっ!」
と叫んだ。花が一輪落ちていた。昨日まで四輪の花がきれいに咲いていが、今は三輪になっている。
 驚いた桃は水をやるのも忘れ、家へ飛んで帰って老婆に報告した。すると、老婆はうれしそうに言った。
「それは冴子さんが幸せになったということなんじゃよ。その花の役目が終わったということじゃな。残っている花はお前と父さんとわしの花で、仲良くここにいるようにと言っているのさ。桃たちが来るまでは一輪しか咲いていなかったさ。いつかまた、一輪増えた時には誰か困り人が訪ねてくるじゃろうがな」
「ふ〜ん」
 幼い桃にはよくわからなかったが、お姉さんが幸せになったと聞いてうれしかった。やさしくてきれいな冴子お姉さんが大好きで、お母さんがいたらきっとあんな感じだろうと桃は思った。まだ水をあげていなかったことを思い出し、桃はまた花の元へと戻って行った。
 
 雄一親子が山奥の家に来て半年余りが過ぎた。雄一は畑仕事などの力仕事の合い間に、村へ買い物にも出かけた。帰りに銀行で記帳をすると、その額があまり減っていない。あらためて自給自足の生活に感嘆せざるを得なかった。
 つい半年前まで普通の都会暮らしをしていた雄一にとって、物はすべてお金で買う物であり、お金がなければ暮らしが成り立たなかった。逆に言えば、お金さえあれば何でも手に入るし、生活に困ることもなかった。しかし、思った以上に自給自足の田舎暮らしは快適で、このままの暮らしも悪くないと思うが、現金収入がない以上いつかは貯金も底をつく。先のことをそろそろ考えなければいけないと思いつつ家路についた。
 家の横では、老婆と桃が収穫してきた野菜の選別をしていた。雄一の姿を見ると老婆が言った。
「そろそろ一冬分の薪を用意しとかねばならねえ。明日からは薪割りに精をだしてもらおうか。葉物の漬物の準備もせにゃならんし。冬支度は大事だからな。」
 
作品名:天国に咲く花 作家名:鏡湖