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新しい世界への輪廻

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「でも、僕の中では前世という意識が一番しっくりくるんですよ。でも、さっき先輩の話を聞いていて、先輩のいう『新しい世界』という概念が、この世界を前世とは違ったものとして再度考えることができるのではないかと思うようにもなりました」
「どうしてですか?」
「私が考えている前世というのは、元々、同じ感覚を何度も繰り返しているので、記憶や意識がないまま、次の世代に受け継がれているものを、何か特別な状態から、覚えてしまっていたのだって考えました。でも、さっきの話の中で、あなたの創造した『新しい世界』は、一生の中で何度も繰り返しているという意見を聞いた時、僕は前世の存在の有無を別にして、『新しい世界』の存在をこの僕が僕なりに証明したのではないかと思ったんです」
 彼の意見は、突飛ではあるが、自然な感じがした。私の中で納得できたのかどうか分からないが、彼が納得しているということは分かった。その上で、私が彼の話に引き込まれていくことに快感を感じていた。
――なんて気持ちいいのかしら?
 快感というと、外部から自分の敏感な部分を刺激されたり、甘い言葉を掛けられたり、心と身体が一緒に悦びを感じることで発散される自分の中にあるホルモンのようなものだと思っている。
 私は、二十二歳になった今では処女ではない。ここで相手が誰だったのかという野暮なことを口にすることは控えるが、最初に感じた快感が、次第に自分の中で変わってくるのを感じていた。
「快感って、成長するものなんだろうね」
 相手の男性がそんなことを口にしたのは、きっと私の反応が最初に比べて変わってきたからだろう。
 後にも先にも彼と一緒にいて、これ以上の恥ずかしい思いはなかった。それは自分も気づいていなかったことを相手に指摘されたからだ。それ以外のことは、言葉に出されても想定内のことであり、恥ずかしさはさほど感じなかった。初めて感じた恥じらいに、私は本当の快感をその時に感じたのだと思っていたのだ。
 初めての相手の愛撫はしなやかだった。彼の指は私の敏感な部分をどうして知っているのか、ピンポイントで私の中から、まるで幽体離脱のような快感を与えてくれる。
「初めての相手があなたでよかった」
 と、私は次第に彼に溺れていくのを感じた。
「君にとっての僕は、僕にとっての君と同じさ」
 その言葉を聞いて、
――私以外の女性なら、彼の言葉の意味を分かるはずなどないんだわ――
 と感じ、彼が自分にとっての運命の相手であると私は確信していた。
 しかも、彼は私の身体だけではなく心までも満足させてくれる。
――エクスタシーって、こういうことを言うんだわ――
 自分がこんなにエロチックな考えを持っているなど思ってもみなかった。普段から理詰めで考える私は、彼とのエロチックな関係も理詰めで考えていた。
 ある程度までは考えられるのだが、肝心なところから先は、曖昧にしか考えられない。私はそれを、
――神聖な領域――
 と感じ、彼との時間がすべてだと思うようになっていた。
 しかし、ちょっと考えれば、肝心なところから先が曖昧なのは、相手の作戦であり、私に自分の領域に入りこまないようにさせるテクニックだということに気づかなかった。
 その中には、彼に自分が溺れていたという考えもあるが、理屈っぽい自分がエロチックな発想にまで理詰めを持ち込むことはないという考えがあったからだ。曖昧にしか考えられないのは、本来であれば相容れない二つのエロチックな部分と理屈っぽさを一緒にしないはずの私がしてしまったことに原因がある。
 私はその時、自分の感じているようなエロチックさと理屈っぽさが相容れない考えだということを誰も信じていないと思っていた。
 しかし、実際にはそんなことを考えているのは自分だけだった。
――どうしてこの期に及んで、他人のことなんか考えたのかしら?
 人と関わりたくないと思っているくせに、人と比較するなんて、自分らしくない。そんな感情に気づいた時、私はいつの間にか彼から遠ざかっていた。
 その時の彼というのは、実は昔でいう「女たらし」であり、甘い言葉や身体から発するフェロモンで、女性を虜にすることが得意だった。まんまと私も引っかかったわけだが、結局二人は、
――水に油――
 だったのだ。
 私は傷つくこともなくその男と別れられたが、そのことを知っている人は誰もいないだろう。
――なかったことにしたい記憶――
 と感じてはいたが、彼から教わったことは少なくなかった。
 快感について、そして女性としての性についても、彼から教わったと思っている。途中の過程はどうであれ、私には快感がどういうものなのかということを残してくれた彼に、ある意味感謝してもいいのだろうと思っている。もちろん、別れた彼が今は別の女性を追いかけているか、あるいは、すでに誰かと快感の真っ最中なのかということは分からないが、私のことなど、忘れてしまっているに違いない。
――意外と私のような女の方が、記憶に残っているのかも知れないわね――
 と、勝手な想像をしてみたが、氷室と話をしていて、まさかその時のことを思い出すなど思ってもみなかった。
――しかも、快感という意識からだなんて――
 と、思わず恥じらいを感じたが、それも一瞬のことで、すぐに恥じらいは抜けていた。氷室はその時、私に何を感じたのだろうか?
 私は少し考える時間を求めた。コーヒーを飲みながらいろいろ考えていると、少し自分の考えが纏まってくるのが分かった。
「私は、やっぱり新しい世界を生きていたいと思っています」
「それはどういうことですか?」
「あなたは、自分の前世を覚えているという話をしていましたが、それは今とはまったく違った人格なんですよね?」
「ええ、そうです。そして、僕が人間から人間に生まれ変わることができたことで、自分の前世を覚えているんだと思っています。もし、前世が人間でなければ、前世の記憶なんかないと思いますからね」
 私は、その意見には反対だった。
「そうでしょうか? 私は覚えているんだって思います。もし前世が人間でなかったとしても、意識はあったはずです。たとえば路傍の石でもそうだと思います。人に踏まれたり蹴られたりしたとしても、その意識はあったと思うんです。ただ、それを記憶が無理にでも封印しているだけなんじゃないでしょうか? それに同じ人間が前世だったと思っている人もたくさんいると思います。誰もそのことを口にしないのは、どうせ誰も信じてはくれないという思いから口にしないんでしょう。皆、バカにされたくはないですからね」
 自分がその人のまわりにいる立場であれば、いきなり前世の話などされると、バカにしたくなるのも無理もないと思っている。今は自分が新しい世界を創造しているのでバカにする気にはならないだけで、それだけに余計に、バカにされてしまうという意識が強くなっていた。
「あなたの新しい世界というのは。また違うんですか?」
作品名:新しい世界への輪廻 作家名:森本晃次