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短編集14(過去作品)

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 だからといって猜疑心の塊というわけではない。逆に人の言うことはすぐに信じ込む方だ。それは男性であっても女性であっても同じなのだが、きっと女性であれば余計に信じ込んでしまうだろう。というよりも、自分とかかわりのあまりない人たちを見ていると、すべて自分より立派な人間に見える時がある。自分を卑下してみているせいもあるのかも知れないが、見えるもの触れるもの以外を信じないという気持ちの裏返しかも知れない。信じないと思っても、それは心の底からでないので、何かを言われてしまうと萎縮してしまうのだろう。それが信じることにどうして繋がるのか自分では分からない。
 しかし、それは自分に自信のない時だ。いろいろな体験をして、自分でもいろいろ分かってくると身についた経験が自分の殻を打ち破ってくれる。要するに臆病だったのだろう。人の言うことを疑わないことが、どれほど辛いことかということを身に沁みて分かった。自分がお釈迦様の手の平の上で踊らされていたのだ。ハツカネズミが輪を走るように、逃れられない呪縛を感じていた。
「あなたって、自信家なのね」
 付き合い始めて泰代に言われた秀樹は、
「ああ、そうだ。そんな男は嫌いかい?」
「いえ、だからあなたが好きになったのかも知れないわね。男は自信過剰なくらいな方が頼りがいがあっていいのよ」
 この言葉が秀樹を有頂天にさせた。
――やはり僕の考えは間違っていなかったんだ――
 ほくそえんでいるのが泰代に分かっただろうか?
 それまでは自分のことには無頓着だった秀樹である。自分に自信がないのに、着飾ってみたり、人に対して誇大評価を与えてしまいそうな行動はいやだった。相手に誤解されて期待され、それに添えなかった時の惨めさを考えると、どうしても踏み切れない世界だった。
 車を改造して、車体以上に改造費に金を掛けている友達が数人もいる。
――バカじゃないか――
 心の中で嘲笑っているが、ひょっとして顔に出ているかも知れない。苦虫を噛み潰したような表情とは、まさしくそんな表情なのだろう。
 着飾ることに関して秀樹はもう一つ気に食わないことがある。若者の街と呼ばれる原宿や渋谷などでのファッション、確かに流行の先端を行っていてカッコいいのかも知れないが、秀樹に言わせれば、ただの真似っこにしか思えない。集団意識の成せる業なのか、それとも自分たちの世界の中だけで生きていたいのか、同じ恰好をしていることで自分たちだけの世界を作っているように思えて仕方がない。自分が狭い世界の中にいるのだと思っている秀樹だからこそ思うことで、思うこと自体に嫌悪感などかけらもない。なぜなら秀樹は自分の世界だけで生きていこうとは思っていないからである。
 確かに自分の世界を確立したいと思っている、それはあくまで集団意識の中での自分の世界ということではなく、個人としての自分の世界なのだ。そこから自分の意見を発信することで、人との考えの葛藤が生まれ、それがコミュニケーションに繋がるのだ。自分の世界が皆それぞれ違うのは当たり前で、それが前提になっているから、逆に自分の世界が存在するのだと思っている。自分に自信がついてきた秀樹が考えた結論であった。
 それだけに泰代に、
「あなたって自信家なのね」
 といわれて素直に嬉しい。しかもそんな人間を好きだと言ってくれたことは秀樹自身にさらなる自信を持たせ、自分の世界の中からまわりを見る角度を確立したような気がしていた。
「そんなに僕って分かりやすい性格かい?」
「ええ、そうね。喜怒哀楽が顔に出るというのかしら、見ていて分かるのよ」
 確かに自分でもそれは感じていた。隠すことをあまりしたくないのは、世間体を気にしたくないと思うあまりだろう。
 そういえば小さい頃に親からよく言われたのは、
「親に恥を掻かせるような行動だけはしないでね。お父さんに叱られるから」
 これは母親からよく言われた。確かに父はお堅い仕事をしている。子供心に、
――恥を掻かせるような行動って一体どういう行動なんだろう――
 と感じさせられ、意味が分からないというのが本音だ。しかしそれより一番気になったのが、父親に叱られるからという理由である。自分の意志がないのかと、いいたかった。
 自分に意志のない人は秀樹は嫌いであった。すぐ人任せにしてしまって、自分で考えようとしない、そういう人をいわゆる「バカ」として秀樹は軽蔑している。特に人の真似をしようとする人は嫌いで、いいところを吸収して自分のものにしようという意志がそこに存在しなければ、それはサル真似でしかない。究極の考え方だが、それが今の秀樹の自信を支えているといっても過言ではない。
「何事も最初に始めた人が偉いのさ」
 これは秀樹の口癖である。
「確かにそれを利用して改良を加えた人も偉いのかも知れないけど、永遠に先駆者には勝てないさ。そこには度胸と、先見の明がなければ成り立たず、それだけ自分に対しての自信もなければいけないんじゃないかな?」
 ここにも自分に対する自信という言葉が存在する。秀樹の考え方の根底には、今まで自分に対して自信を持つことが最優先課題だったのかも知れない。
 分かりやすい性格と自信過剰なところは切っても切り離せないもののように感じる。だが、それは片や無意識なところで、片や意識の上に成り立っている性格である。一つ言えることは、それぞれが本能の中から成り立っているということではないだろうか。確かに分かりやすい性格というのは他の人から見た客観的な性格であり、自信過剰なのは意識しているものであるが、自分の性格を形作る上でなくてはならないものだと感じたのは本能からなのだと思っている。
 自分に自信がないと一つ何かに躓いたりすると、すべてのことがうまく行かなくなるような錯覚に陥るのだ。リズムという歯車が狂うことで起こってしまうミス、小さいことでも積み重なっていけば致命傷にもなるのだ。それだけにリズムやパターンを大切にしようとする。それが客観的に見て、
「あなたは、本当に分かりやすい性格」
 ということになるのだろう。そういう意味で本能によるところとも言えるのではないだろうか?
 従順な女が妖艶な女に豹変した瞬間。
 それを秀樹は覚えているだろうか?
 それまでに一緒に呑んだことのない相手ではない。泰代とは何度か居酒屋へ寄ったことはあったが、いつも泰代は控えめだった。しかしその日の泰代は自分から秀樹を誘ったのだ。
 秀樹の知らなかった泰代の一面。それを垣間見ることは本当に秀樹にとっていいことなのだろうか? 少なくとも秀樹は戸惑いながらも、いいことだと思っている。
 一つの疑問として、
――いつも泰代はここに一人で来ているのだろうか?
 という思いがある。店の雰囲気としては女性一人で来ても別に不思議はなく、逆に女性一人の方が絵になるくらいである。秀樹は一人で来て、カクテルを口に運んでいる泰代を想像していた。
作品名:短編集14(過去作品) 作家名:森本晃次