赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 61~65
相方を促した作業員が、ヘルメットを押さえながら稜線の道を進む。
『おい。遠くで雷が鳴り始めてきたぞ。こいつは、けっこうな
嵐になるかもしれん。
毎度のことながら温度が急変する今頃が、一番厄介な気象を産み出す。
荒れた天気になければいいがなぁ・・・』
後からついていく同僚も突風に身を抗いながら、山小屋を目指して
小走りになる。
稜線上の登山道から避難小屋まで、わずか300m。
しかし。突風が吹きあれはじめた尾根の道は、常に極度の危険がつきまとう。
幅1mに満たない尾根の道は、ちょっとバランスを崩した途端、足を滑らせて、
斜面を滑落していく不安に襲われる。
態勢を低くしながらようやくの思いで、作業員の2人が山荘へたどり着く。
ヒゲの管理人がすぐに、心配そうな顔をみせた。
「おまえさんたち。途中で2人連れの女の子たちに合わなかったか?
あんたたちより少し前に、ここから下って行った。
無事に下の樹林帯まで降りていったかどうか、時間的に微妙だ」
「おう。会ったぞ。
30分くらい前のことだ。
俺たちがまだ、ヒメサユリ街道の草刈りをしていた時だ。
語らいの丘を経由して下ると言っていた。
道草をしていなければ、そろそろ下の樹林帯へ着いてもいい頃だ。
なんともいえないが、今日のガスはちょっと手ごわいぜ」
「おまけに北から、雷が接近中だ。
麓に問い合せたら発達した低気圧が進路を変えて、南へ進み始めたそうだ。
このままだと、この小屋も低気圧の直撃を喰らうことになる。
ちょうどよかった。
顔なじみのお前さんたちも手伝ってくれ。
窓やら、屋根の危なそうなところを、今のうちに補強しておきたい。
猫の手も借りたいほど忙しい。
よかった、助かったぜ。ちょうどお前さんたちが来てくれて」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 61~65 作家名:落合順平