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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 61~65

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 「なるほどねぇ。
 喜多方で育った市さんは、飯豊山のことをよく知り尽くしています。
 それにしてもこの事態は、楽観できないようだ。
 ますます霧が濃くなってきた。
 どうにも視界が悪すぎる。動くことはあきらめましょう。
 少し不安だけど、このままじっと待機して、霧が晴れていくのを待ちましょう」

 「他にも何か入っているのかい?」
恭子が、清子のリュックサックの中を興味深そうに覗き込む。
そのとき。かすかな物音を聞きつけて恭子が、ふと不安そうな顔をあげる。
かすかに鳴る雷鳴の音を、遠くに聞いたような気がする。
何も見えない白いガスの彼方に向かって、もういちど、最大限の注意で
耳を澄ましていく。

 「どうかしたのお姉ちゃん。突然、耳なんかすまして?」

 「しっ。清子。
 いま、かすかにだけど、遠くに雷鳴が聞こえたような気がしたんだ。
 空耳かしら。まだ、お昼にもならない時間だというのに・・・・」

 「山のお天気が崩れるのは、午後からというのが相場なのですか?」

 「たいていは、午後から崩れる。 
 でも山のお天気というものは、変わりやすいのが一般的だ。
 よく晴れていても風の影響を受けて、とつぜん、変わってしまうこともある。
 あ・・・やっぱり間違いじゃないな。
 やっぱり遠くで、雷が鳴り始めている。
 空耳じゃなかったようようだ。
 さあて、困りましたねぇ。
 濃密なこの霧に続いて、さらにもうひとつのピンチが山の彼方から、
 まもなくここへやってきそうです」

 「え・・・・ということは、お姉ちゃん。
 私たちは今、ここで遭難寸前になっているという意味ですか?」

 「安心しな。まだ遭難したわけじゃない。
 正しく言えば、この場所から、身動きがとれないだけの状態だ。
 霧さえ晴れてくれれば、安全に移動できるだろう。
 雷も進路が外れれば、無事に済むことだろう」


 「霧が晴れなければ、このままわたしたちは、ずっと移動はできない。
 雷も、わたしたちを直撃する可能性が有る。
 そんな風に聞こえました。
 ということは絶対絶命の大ピンチですねぇ。ホント、困りましたねぇ・・・」

 「ピンチだけど、困難が来ると決まったわけではない。
 それよりも、なんだか少し肌寒くなってきた。
 体を冷やすと大変だ。お前、着るものは充分に持っているかい。
 大丈夫かい?、身体を冷やしたら大変なことになるよ」

 「それなら市さんのメモの中に、良いアイデァが書いてあります。
 身体が冷えてきたときや、雨に降られそうになったら、
 寝袋に入れと書いてあります。
 頭からビニールシートをかぶり、2人で身体を寄せ合えと書いてあります。
 無駄な体力の消耗を抑えて、救助を待つのが一番だそうです。
 なんだかまるで、これって、遭難時の心構えのようですねぇ・・・」

 「なんとも、恐るべき洞察力だ。市さんの見通し通りの展開になりそうです。
 万が一ということもある。
 市さんの指示通り、寝袋とビニールシートを取り出して雨と雷の
 襲撃に備えよう。
 この霧はたぶん、簡単に晴れそうもない。
 雷も、確実に近づいてくるようだ。
 清子。想定以上の大ピンチが、やってくるかもしれないね。
 私たちのすぐそばへ、まもなく・・・・」


(63)へつづく