赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 61~65
「えっ?。オダマキが咲いている?。変だねぇ・・・・。
あっ、よく似ているけどこれは、ハクサントリカブトという猛毒の花だ。
お前。手で触れるんじゃないよ。
簡単に人を殺すほどの猛毒を持っているんだからね、この花は」
「えっ。猛毒の花なのですか・・・・うわ~、危機一髪でしたぁ。
よかったねぇ、たま。可愛さにつられて、思わず頬ずりなんかしなくてさ」
『ふん。俺さまはそんなチンケな花に、まったく興味はない。
そんなことより、周りをよく見てみろよ清子。
ここから見渡すかぎり、全方位がすべて、飯豊山の絶景じゃねぇか!」
ふと目を上げた清子が、自分の目に飛び込んで来た景色に、思わず息を呑む。
斜面の先。足元から一気に落ち込んでいく深い谷がある。
さらにその先。谷を越えた向こう側に、たくさんの雪渓を抱いた青い山肌が、
ドンと壁のように空に向かってそびえていく。
巨大な山容は、北に向かって、どこまでも果てしなく連なっていく。
『ホントです。飯豊連山が一望できます。たまが言う通りの、
絶景が見えます・・・』
清子の頬を、谷底からのつめたい風がすり抜けていく。
「そうだよ清子。
ここは飯豊連峰の全部の景色を、独り占めできる場所さ。
斜面には見渡す限り、薄いピンク色のヒメサユリの花が群生している。
黄色いニッコウキスゲの花も、負けじと咲きほこっている。
これが清子に見せたかった、飯豊山の素晴らしさだ。
すごいだろう、ここは。
ここにこうして腰を下ろして見つめていると、時間が経つのを忘れるよ」
「ホントです。だから、ここについた名前が、語らいの丘ですか。
ドンピタリのネーミングだと思います。納得です」
「清子。向こう側の山肌に、登山道が見えるだろう。
リュックを背負った登山者が、アリのように歩いているのが見える。
ここは山登りのための登山道だけではなく、散策するための
小道が整備されている。
みんな山小屋や避難小屋に連泊しながら、あんなふうに、思い思いに
足を伸ばしていく。
それがこの山、飯豊山の楽しみ方なのさ」
2人の頭上は相変わらず、雲ひとつなく晴れ渡っている。
しかし谷から吹き上げてくる風に、いつしか肌寒さがこもって来た。
風の洗礼を受けてたまがまた、顔を洗いはじめた。
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 61~65 作家名:落合順平