赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 61~65
たまが上を向いたまま、鼻をヒクヒクさせている。
目はうつろ。
突然すぎる展開に、たまはただただ気持ちが動転している。
パニックにどっぷりと浸かったままの状態だ。
『大丈夫だ、たま。
霧は、間もなく晴れると思います。
もう少し辛抱すれば、私たちはきっと、下に向かって歩き出せます。
でもね。危ないから視界が晴れないうちは、ここで我慢しましょう。
おとなしく言う事を聞いて、お前もその時がくるまで辛抱強く待つんだよ』
『清子は平気なのかよ・・・・
ほぼ遭難しているという事態だというのにさぁ。
おいら。全身がずぶ濡れだ。
あっ。ほらぁ、また遠くから、雷の音が聞こえてきたぜ』
『あたしだってさっきから不安だよ。
心臓がバックンバックン踊っているもの。
でもさ。こんな時だからこそ、自分を見失ってはいけないの。
お姉ちゃんだって必死なんだ。
なんとかしてこのピンチから、抜け出す方法を考えています。
あたしたちが不安な顔を見せたら、お姉ちゃんがもっと辛くなる。
顔を拭いてあげるからこっちを向いて、たま』
『清子よ。助かるのかなぁ、俺たちは・・・・』
『別に遭難が決定したわけではありません。
霧に閉ざされて、たまたま身動きができなくなっているだけのことです。
通りがかりのヒメサユリが咲いている高台で、水滴に濡れながら
少し休んでいるだけのことです』
『オイラの耳には、確実に、雷の音が近づいているのが聞こえるぜ。
身体を隠せない急斜面だ。雷の直撃を受けたらやばいだろう
と、嘆いてみせたところで、これだけの濃い霧に囲まれていたんじゃ、
身動きなんかとれないか。
こういうのを絶対絶命の大ピンチと言うんだろうなぁ。世間では』
『たしかにそういう言い方もある、たま。
でもさ。99%のピンチでも1%の運が残っていれば、事態が変わることもある。
9回の裏2アウトでも、逆転のサヨナラホームランが出る場合もある。
結果は下駄を履くまでは、誰にもわかりません』
『いったい誰が、この土壇場で、起死回生の逆転ホームランを打つんだよ。
俺か、お前か、それともそこにいる10代目か?』
『さぁて、いったい誰でしょう。
私かもしれないし、10代目の恭子お姉ちゃんかもしれません。
もしかしたら、たま。
お前さまかもしれませんよ、うっふっふ・・・』
(65)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 61~65 作家名:落合順平