赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 61~65
「なんだか急に、ひっそりしてきました。
物音が聞こえなくなりました。
こういうのを、嵐の前の静けさと言うのでしょうか?」
「不安かい、清子」
「いいえ。お姉ちゃんと一緒にいれば平気です。
昨夜、猛烈な雷に襲われたせいで、山の嵐に、すっかり慣れました」
「慣れたか。それはよかった。
でもね。残念ながら昨日とは、条件が決定的に違う。
ここには嵐を遮ってくれる、壁も、屋根も無い。
体を隠す場所さえない、急斜面の草の上だ。
この霧が晴れてくれると移動できる。
下の樹林帯まで移動できれば、なんとか助かるんだけどねぇ・・・・」
「遭難したときに無駄に歩き回ると、さらに事態を悪くするそうです。
夏山でも低体温症で遭難死してしまう例も、あると書いてあります。
体温を奪う最大の要因が、『濡れ』と『風』だそうです。
ずぶ濡れになり、強風にさらされると、体温が奪われて行動不能になる。
その状態が悪化して、やがて遭難に至るそうです。
それが遭難死の典型な例だと、市さんのメモに書いてあります。
霧でもけっこう、濡れるものですねぇ」
「そういうば、たまは大丈夫かい?。
猫は、体毛や皮膚が濡れることを極端に嫌う生き物だ。
猫の祖先は、リビアヤマネコ(アフリカヤマネコ)。
昼と夜の寒暖差が激しい砂漠の出身だ。
ずぶ濡れのまま寒い夜を迎えると、水が蒸発するときの気化熱で、
体温を奪われて、やがて命を落とすことになる。
そのため猫は本能的に、水に濡れることを嫌うようになった。
シャンプーしようとすると、狂わんばかりの勢いで抵抗するのは、
そのためと言われている。
猫が迷子になったら、乾いていて濡れていない場所を探すと、
見つかると言われているのもそのためだ。
ほら。これ以上たまを濡らさないよう、新しいタオルで包んでおあげ」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 61~65 作家名:落合順平