短編集13(過去作品)
と思っている私だったので、彼女の話はかなりの説得力があった。このまま別れるべきか真剣に考えたことも否めない。果たして私の結論はどうだったのだろう?
「あなた、今日は本当におめでとう」
「ありがとう、美穂」
キッチンの上にはステーキに自家製のポテトサラダ、そしてバースディケーキがところ狭しと並べられている。
私の前に鎮座している美穂は実に美しい。エプロン姿も板についている。
――本当に美穂と一緒になってよかった――
至福の悦びを感じる瞬間である。
私は自分を取り戻したのである。美穂の気持ちをすべて聞いたうえでの結論であったことに迷いはない。
私はプロポーズの言葉を今でも覚えている。それは美穂が私に別れを匂わせたすぐ後のことだった。
「君は実に美しい。人を好きになれば美しくなれるというが、君は僕を好きになることで美しくなった。その美しさを一生僕に下さい」
クリスマス間近の、寒風吹きすさぶ喫茶「ピノキオ」の出窓には、ポインセチアの赤い色が、より一層赤く映えていたのが印象的だった……。
( 完 )
作品名:短編集13(過去作品) 作家名:森本晃次