春はまだ先 探偵奇談14
だけどそれは、彼の臆病さの表れでもあると思う。どんな形であれ、関係を失うのが怖いのだ。他人には興味がないくせに、一度懐に入れた人間には執着に似た思いを寄せる。
「一緒に生きることを許されて、安堵したぶん幼稚化したのかな。もう、失わずに済むんだって、ホッとしたんでしょ」
奪われて失って。また奪われて失って。それを幾度も幾度も繰り返してきたらしい魂。やっとその連鎖を断ち切ったのだ。もう失わずに済むと、安心して甘えまくっているのだろうか。
「そろそろ下校時刻だな。瑞を探してくるよ」
「心当たりあるんですか?」
「たぶん視聴覚室にいる」
前回のポルターガイスト事件で、彼は伊吹のクラスメイトで映画同好会の斎藤と親交を持った。そこでおすすめ映画なんかを見せてもらううちに気に入られ、出入りするようになったのだ。この頃瑞に声を掛けようと校門や自転車小屋でたくさんの女子が待ち伏せしているらしいので、もう帰った風を装って隠れているのだと伊吹は言う。
「先輩も大変ですね。お先です」
「またな」
伊吹が去っていく。
(何だかんだ言いながら、幸せそうだ)
仲がいいんだから。颯馬はぷぷっと笑って窓の外に目をやる。早く雪やまないかな。
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作品名:春はまだ先 探偵奇談14 作家名:ひなた眞白