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⑧残念王子と闇のマル

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素直な気持ち


「思い出さなくていい?」

訊ねる麻流の声は、震えている。

「ん。」

空は、理巧が淹れた麦茶に口をつけながら頷いた。

「過去なんて、どうでもいい。思い出なんて、今から作ればいい。」

空は大きな手を麻流の頭に乗せると、優雅に微笑みながら撫でる。

「大事なのは、今の気持ちから目を逸らさないこと。」

麻流は至近距離で空と目を合わせられない為、俯いた。

「もう、引き離したりしないから。」

優しく何度でも頭を撫でられているうちに、麻流の氷のように冷めていた瞳から熱い涙が溢れ落ち始める。

「ごめんな…俺がおまえらを苦しめちまった…。」

声を圧し殺して泣く麻流を、空は抱きしめた。

「…王子と私は、深い関係にあったのですか?」

抱きしめられたまま訊ねてくる麻流に、空は頷く。

「ん。命懸けで愛し合ってた。」

「姉上、これを。」

麻流の傍に跪くと、理巧がビロード張りの小箱を差し出した。

空が麻流を離し、その小箱の蓋を開けて麻流に見せる。

「これが証拠。」

そこにはエメラルドグリーンのピアスと、金のピアスがひとつずつ入っていた。

金のピアスには、おとぎの国の紋章が刻まれている。

「王妃になる者への、婚約の証だってさ。」

言いながら、空が麻流の左耳に一瞬だけ触れた。

ハッとした麻流も、慌ててそこに触れる。

「…!」

外すと、それは麻流の黒水晶のピアスでなく、金のピアスだった。

(いつの間に…。)

驚く麻流の心を読んだように、空が答える。

「理巧だよ。」

麻流が理巧を見ると、理巧は頭を下げながら元々つけていた黒水晶のピアスを返してきた。

麻流は手のひらに2つのピアスを乗せて、ジッと見つめる。

その様子を、空と理巧は黙って見守った。

「…ぅ…」

突然、麻流は小さな呻き声をあげる。

「!」

空と理巧が同時に手を伸ばす前で、額をおさえながら崩れ落ちるように膝をつく麻流。

「まずい!」

空が素早く麻流の眉間に指を当て、言霊を唱えた。

「眠れ。」

その言葉と同時に、麻流の瞼は閉じられる。

手から落ちた2つのピアスを、理巧が拾った。

「理巧。」

空が麻流を抱えたまま、視線を流す。

「かしこまりました。」

理巧は2つのピアスを無くさないようにビロードの箱に納めると、麻流を抱き取った。

「20分が限界だよ。」

「は。」

理巧は頭を下げながら、唇を噛む。

けれどそれを空に悟られないように踵を返すと、麻流を抱えて部屋を出た。
作品名:⑧残念王子と闇のマル 作家名:しずか