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⑦残念王子と闇のマル(修正あり2/4)

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記憶


暗い場所にいる。

(ここは…木の上?)

その時、遠くに、身なりの良い屈強そうな男が現れた。

息を殺して、その男が間合いに入るのを待つ。

そして、間合いに入った瞬間。

私は飛び降りながら、その男の首を…切り落とした。

「っ!!」

傾ぐ男の体から放たれるぬるい血飛沫を浴びながら、落ちた首の傍に着地する。

突然の出来事に固まっている護衛の騎士達を斜めに一瞥すると、悲鳴をあげて蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

私は足元の首を無造作に掴み、白い瓶に入れる。

そしてその男の胴体を切り刻み、火を放った。

むせ返る鉄と脂の臭いに顔を背けた瞬間、腕を掴まれる。

「っ!?」

骨が軋むほど強く掴まれた腕をふり解き、痛みに歯を食いしばりながら顔を上げると、暗闇に男が立っていた。

間合いを取る間もなく、その男は片手で私の首を掴む。

抵抗すれば首の骨をへし折られる…。

私は、生き延びるために…体から力を抜いた。

するとその男は、私の胸ぐらを乱暴に掴むと、一気に服をひきちぎる。

そして私の素肌を、かさついた手で撫で回してきた。

「おまえが、おれの国の将軍を暗殺した。」

耳元で囁かれ、鳥肌が立つ。

「将軍が殺されたから…おれの国は攻め滅ぼされた。」

髪の毛を掴まれ、無理やり視線を合わせられた。

鼻と鼻がつきそうな至近距離で見たその顔には、確かに見覚えがある。

「…キース…。」

緑の都の第一王子、キース。

そう…私が首を切り落としたあの屈強そうな男は…、緑の都の将軍。

その首を虹の都の王に献上した後…緑の都は虹の都に攻め滅ぼされた。

「金を積まれりゃ簡単に股を開き、国でさえ気安く滅ぼす汚い忍の娼婦が、おれの名前を呼ぶな!」

キースが叫んだ瞬間、私の体の奥深くが貫かれる。

「…っく…。」

凌辱され悔しくて悲しくて恐ろしくて、この地獄から逃げ出したい、と天を仰いだ。

けれど、深い闇には一閃の光すら見えない。

(もう、こんな暗闇は嫌だ…。)

涙が溢れそうになり、奥歯に仕込んでいる自害用のカプセルを噛み砕こうとした、その時。

真っ暗だった視界に、突然眩い光が射し込んだ。

「マル!」

歌うような透明な声で名を呼ばれた瞬間、私の体は痛みから解放され、温かくて柔らかなものに包み込まれる。

「助けるのが遅れて、ごめんな。」

眩しくて目が開けられない私の耳に、温かいものがやわらかに押し当てられた。

「生きててくれて、ありがとう。」

優しい涙声に、私はゆっくりと目を開く。

白く霞む視界に目を細めた時、金色の光の中で輝くエメラルドグリーンの瞳が見えた。

「…カ」

自分の発した声に、意識が覚醒する。

飛び起きると、そこは私室のベッドだった。

「…夢?」

乱れた呼吸を整えながら、見ていた夢を思い出そうとする。

けれど、つい数秒前の夢なのに、思い出せない。
ただ覚えているのは、真っ暗な闇の世界でただただ辛くて怖くて震えていたこと。

けれど突然、明るくて温かな優しい世界が訪れたこと…。

「『カ』…って、なんだろう。」

自分が何を言おうとしたのか、わからない。

その時、布団の上に滴が落ちた。

「え?」

驚いて落ちた滴を見つめていると、パタパタと小さな音を立てて、何粒も落ちる。

私は震える手で、頬をそっと撫でた。

「なんで、泣いてるの?」

とめどなく溢れる涙に、私は戸惑う。

慌てて手でそれを拭うと、ベッドから飛び降りた。

私はクローゼットから忍装束を掴むと素早く着替え、背中に忍刀を2本差し、一通りの装備をすると、寝室の窓を一気に開け放つ。

外はまだ、真っ暗な闇に包まれていた。

私は黒いマスクを鼻まで引き上げると、眼下にそびえる大木目指して飛び降りる。

枝が揺れて音を立てないように、一番てっぺんの太い枝に着地した。

そしてするすると木を降りると、そのまま中庭を横切り、厩舎へ飛び込む。

「…星?」

けれど、そこには星がおらず、美しい白馬がいた。

その白馬は私を見ると、興奮したように体をゆすり尻尾を高くふる。

そして小さな声でいななく様子で、この馬が私を知っているのだろうと推察できた。

でも、私はこの馬を知らない。

知らないはずなのに…それなのに、この馬を見ると懐かしい愛しさがわきおこり、胸が苦しくなった。

温かな想いに満たされながらも、なぜか哀しくなる。

私は自然と白馬に手を伸ばし、鼻先をそっと撫でた。

その瞬間。

「リンちゃん。」

口から、言葉がこぼれた。

(リンちゃん?)

なぜそんなことを言ったのかわからず、首を傾げた私の前で、白馬は嬉しそうに、返事をするように、いななく。

「…リンちゃん。」

もう一度呼ぶと、白馬は尻尾を高くふりながら再び嬉しそうにいなないた。

「きみ、リンちゃんっていうんだ?」

私は微笑みながら、ふと白馬の腹を見る。

少し膨らんだ腹で、この白馬が牝なんだということがわかった。

「おめでたか。」

この言葉に、ズキンと胸が痛む。

なぜだか、下腹部に鈍痛が走った気がした。

そんな私の頬に、リンちゃんは尻尾をふりながら鼻をおしあてる。

「ふふ、可愛いなぁ。」

私は、その鼻先を抱きしめた。

「また、遊びにくるよ。」

私が言うと、リンちゃんがまたいななく。

「夜遅くに、ごめんね。」

私は鼻先を撫でて、体を離した。

リンちゃんは少し寂しそうに尻尾を下げたけれど、それでも再びそれを大きくふりながら私を見つめる。

「またね。」

私は軽く手をふって、厩舎を出た。

そしてまっすぐに敷地を横切り、門番の目を盗んで城壁を飛び越すと、そのまま夜の城下町を駆け抜ける。

「…。」

何が目的で、今私は城を抜け出したのかわからない。

どこへ向かおうとしているのかも…けれど、なぜかそうせざるを得ない、突き動かされる衝動があった。

大事な何かが、私の心からこぼれ落ちてしまっているように感じる。

そして、そのこぼれ落ちてできた大きな穴に、頑丈な蓋がされているような気がするのだ。

あの白馬…なぜあの子は私を知っているのに、私はあの子がわからないのか。

…あそこは、星専用の厩舎。

なぜ星がおらず、あの子がいたのか。

星は、私の使役動物なのに…。

「…そうか…。」

私の足が、ピタリと止まる。

「もう…私の馬じゃなかった…。」

星は、星一族の馬。

13歳で一人前の忍になった時に父上から頂き、私が訓練し育てた馬だけれど…王女になった私は、もう主じゃない。

「星は今頃、任務に出てるのかな。」

王女としてお披露目されたその時から、当然ながら私には星一族の動向が一切耳に入らなくなった。

そして、常に奥歯に仕込んでいた自害用の毒薬も解毒カプセルも毒手裏剣も…星一族固有のものは全て返し、もう手元にない。

今私の手元にあるのは二本の忍刀に訓練用の飛び道具一式、そして着古した忍装束のみだ。

(そもそも、なぜ忍をやめることになったのかもよくわからない。)

ある日突然、父上からお披露目の話が出て、あれよあれよという間に忍ではなくなった。

この数年の記憶も曖昧だ。