Hail mary pass
和馬は、白髪頭になった高岡の姿を一瞬だけ目に留めて、メニューに目線を落とした。
「お前、実家を引き継いだんか」
高岡の言葉に、和馬はまた目線を上げた。
「ええ、もう自分しかいませんが、意外に居心地はいいですよ。冬は寒いですけど。一昨年、豪雪で清水の家は屋根が抜けました」
和馬の言葉は、どこをどうつついても、必ず過去を纏っていた。高岡は実家の話をしたことを少し後悔しながら、ウェイトレスを手で呼んだ。
料理を平らげ、逃げるようにレストランから出ると、和馬はランドクルーザーの方に歩きながら言った。
「では、また何か進展があれば」
「おう、またな」
高岡は短く答えるとスカイラインに乗り込んだ。道の駅を出て、帰りの高速道路に乗ったところで携帯電話が鳴った。敦子からのメールで、『もしいけそうなら、サービスエリアに寄ってから電話くれないかな』という内容だった。食べたいものが決まったのだろうか。そうとなると、日常に戻るほかはなかった。
作品名:Hail mary pass 作家名:オオサカタロウ