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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Hail mary pass

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 一ヶ月が経ったが、和馬には一年近くが過ぎたように感じていた。覚せい剤中毒のホームレスを取り押さえている間に、相手を死なせてしまった。元々居心地の悪かった交番はさらに針のむしろのようになり、巡査部長は署で思い切り絞られたらしく、そのおすそ分けをするように、和馬に当り散らした。元々居場所がないからという暗黙の指示で配属されたのが、この交番だった。もう下はない。自転車でいつものようにパトロールをしていても、自分だけが町全体から切り離されたように思える。平和な町だから、道案内が一件だけで、事件めいたものは何もなかった。ただ、あの日だけが特別、自分に牙を剥いたように感じた。和馬が交番に戻ると、場違いなスカイラインが停まっていた。パトカーが出られるかぎりぎりの位置で、和馬は注意する心積もりで交番の引き戸を開いた。巡査部長がいたが、目もあわせなかった。指で仮眠室を指した。和馬が覗き込むと、三十代前半ぐらいの男が二人、茶を飲みながら雑談しているのが見えた。和馬は言った。
「あの表の車、どけてもらえませんか」
 年上の方が笑った。
「すまんね、すぐ終わるから。俺は高岡。巡査部長」
 高岡は手を差し出した。和馬は思わず姿勢を正して敬礼しかけたが、慌ててその手を握り返した。
「岩村言います」
 もう一人が手を差し出した。和馬は同じように握手を返すと、頭を下げた。岩村は付け足すように言った。
「あ、俺は巡査長ね。まあ、そんなんどうでもええわ。座りや」
 和馬は二人に向かい合うように腰を下ろした。正座していることに気づいた高岡は声を上げて笑った。
「そんなかしこまらんでもええって」
 和馬が足を崩すと、それが合図のように岩村が話し始めた。
「こないだは、災難やったね。その場の判断よりも、あとが大変やったやろ」
「はい、自分は……」
 和馬の言いかけた言葉を、高岡が手で遮った。
「別に説教しにきたわけちゃうねん。むしろ逆やな。俺は、君のやったことを評価してる」
 岩村もうなずいて、付け足すように言った。
「せっかくの力持ちが、こんなことでキャリアを断たれるんはな。正直見てられん。灰野巡査。警察官の本懐はなんやと思う?」
 和馬はたどたどしく、自身の考えを語った。高岡は、和馬が持つ正義感を、その態度や声の様子から見て取った。その根源にあるのは、容赦がなく、時には凶器にもなりうる生真面目さだった。岩村が言った。
「公共と市民の安全を守る、か。ほとんどの警官はようやらん。ぐだぐだしとる間に、取り逃しよる。ややこしそうな相手には声もかけん。君はそれとは違うな。うちらも、その考えでずっとやってきた」
 岩村は煙草をくわえ、懐からマッチ箱を取り出すと、一本を擦って火をつけた。煙を浅く吐いた後、和馬に連絡先を書いた紙を手渡した。
 一週間後の夜中、呼び出し場所に現れた和馬は、目の前に未解決誘拐殺人事件の犯人が転がっていることが信じられない様子で、高岡と岩村の顔を代わる代わる見た。高岡が言った。
「証拠不十分で不起訴になった以上、こいつはもう捜査線上には上がらん。でもな、実際にやったんはこいつや」
 手足を縛られた男は、和馬の顔を見上げていたが、岩村が拳銃を抜くと、その銃口から逃げるように顔を背けた。和馬は、改めてその場にいる面子を見回した。高岡と岩村、そして雑用係と紹介された向山。岩村が拳銃を差し出した。和馬はそれを受け取ると、銃身に刻まれた口径の刻印を目に留めた。色は銀色だが、サクラと同じ型だった。それが後押しになったように、和馬は銃口を男の頭に向けて、引き金を引いた。撃鉄が空の薬室を打ち、金属音が鳴った。
「合格や」
 岩村は拳銃を和馬の手からひょいと取って、満足げにうなずいた。高岡も、腕組みしたまま深くうなずいた。向山が地面に置かれた毛布を広げると、斧を取り出して、男の胴体に力いっぱい振り下ろした。和馬は思わず飛びのいた。向山は三年間で、六人を解体した。苦労したのは最初の一人だけだった。あとは何人でも同じことで、どんどん楽になっていった。
 解体が終わって、桐の箱に親指の骨を入れた後、和馬は高岡からサインペンを受け取り、その箱に『七』と書いた。同時にタウンエースが倉庫の外に停まった。降りてきた清水が倉庫の中に入ってくるなり、和馬の姿に気づいて身構えた。和馬は露骨に清水の顔を睨み付けた後、高岡と岩村の顔を代わる代わる見た。高岡が、ようやく全てを一本の線で結んだ和馬に言った。
「桜鈴会にようこそ」

作品名:Hail mary pass 作家名:オオサカタロウ