Hail mary pass
予想外の反応に和馬が黙っていると、岩村は真顔に戻って続けた。
「真面目な話に戻すぞ。金が要るとか、そんな嘘っぱちはなしや。お前には似合わん。捜査費な。清水に持たすんやろ。お前がそうやってカタつけたいんやったら、そうしたらええ。ほな明日、また俺に連絡してこい」
呆気にとられて、和馬は言った。
「岩村さんは、これからどないするんです?」
「わがの心配だけしとけ。人間、みーんなわが身可愛さや。あの高岡ですら、家族っちゅう逃げ場がある」
岩村はそう言って、紙袋から手を抜いた。和馬の右手が思わず強張り、四五口径が手に食い込んだ。岩村は手に何も持っておらず、紙袋の開いた口を丸めて差し出した。和馬は、紙袋を開いた。中に入っているのは細長いガラス瓶で、和馬が予測した銀色の拳銃ではなかった。
「ここが作っとるラー油や。いつも持って帰るんやが、お前にやるわ。いっぺんに食うなよ」
和馬が何も言えないでいると、岩村は苦笑いを浮かべた。
「お前、次に誰かがこんな動きしよったら、ラー油でも撃たなあかんぞ」
作品名:Hail mary pass 作家名:オオサカタロウ