小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

タイム・トラップ

INDEX|34ページ/34ページ|

前のページ
 

 本当は不安のない人生を歩んでいるはずなのに、言い知れぬこの不安は、完全に想定外だった。それでも、いずれ何かの結論にぶち当たるはずだ。その契機が、三十代に待っているように思えてならない。自分と一緒に過去に旅立った桜井が、江崎を待ってくれているはずだからだ。
 実際に三十代になり、桜井の出現を待ちわびていると、ふいに立ち寄ったスナックで、
「そうだよ。俺はこの間まで五十歳だったんだ」
 というおかしな男が目についた。
 その男は、見たことはあるが、誰なのか分からなかった。
 その時、店の女の子から、
「江崎さんは、いつもそんなことばかり」
 と言っていた。
――江崎?
 聞いたことはあるが、誰だったんだろう?
「お客さんは、ここ初めて?」
 女の子からそう声を掛けられた男は、
「ええ、松永と言います。以後、お見知りおきを」
 というと、
「松永さんね。私、慶子といいます。よろしくね」
 その笑顔に吸い込まれそうになっていると、こちらをじっと見ながら頷いている男がいたようだ。
「桜井さん、小説の方は進んでますか?」
 そう言われたその男は、
「ええ、進んでいますよ。もうすぐ完成です」
 と言いながら、自己紹介をしている松永を見ながらほくそえんでいた。
「ふふふ、すべては私の小説の通りだ」
 松永と呼ばれた白髪の紳士は、五十代前半という年齢であろうか……。

                 (  完  )



2


作品名:タイム・トラップ 作家名:森本晃次