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第一回・怖いもの選手権顛末記

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 そんな中、先頭の化け猫は手ぬぐいを小道具に使い、たたんで頭に乗せたり頬かむりしたりと、和の要素を盛り込むことも忘れない。
「シャアッ!」
 曲のエンディング、先頭の化け猫が叫んでポーズを決め、バックの化け猫たちもそれぞれ異なるポーズを決めてダンスを終える、と、一瞬にして十一体の化け猫は十一人の女子高生へと姿を変えた。 そして……。
「ありがとうございましたぁー」
 彼女らは深く一礼すると、手を振りながらキャピキャピと舞台袖に消えて行く、客席に投げキッスを飛ばして行く者も……。
 電光掲示板はぐんぐんと数字を上げ、1,854点を示した。


「中々キレキレのダンスであったな……音楽がヘビメタであったなら尚良かったのだが……う~む、怖さと言う点では……いや、彼女たちの『世を忍ぶ仮の姿』がごく普通の女子高生に見えるところが怖さの本質なのかも知れぬな、似たようなものである我輩ですら何を信じて良いものかわからなくなった心持がしないでもない。
 次は……うむ、今度はうって変わってしっとりとしたパフォーマンスになると思う、期待してくれたまえ」

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 お菊が引いたくじは十二番、最後から数えて二番目の出番だった。
 『二百年一昔』で暮らしてきたお菊にとっては心地良く刺激的な時間ではあったが、出番が近付くにつれて胸の鼓動……はもうないのだが、落ち着かない時間を過ごしていた。
 司会のデーモン夕暮が喋っている間に、緞帳の裏側ではスタッフが大忙しで動き回って、古井戸と柳をセットしてくれ、お菊はその井戸へと身を潜めた。
 すると、ぐっと気持ちが落ち着いてきた、やはり二百年住み慣れた井戸は心を落ち着かせてくれる。
 
 ♪ヒュゥゥー、ヒュルルル~

 打ち合わせた通りの物悲しい横笛の音……ひとしきりそれが流れるのを聴き、お菊はゆっくりと井戸から姿を現して行く。
 お菊は自分の身体の透け具合をある程度コントロールできる、最大限の透け具合……線香の煙が揺らいでいる程度にしか見えない透明度で井戸から全身を現すと、徐々にその姿をはっきりさせて行った、だが、当初は最低限の透明度まで姿を現すつもりだったのだが、旧友・お岩の失敗を見ているので半分程度に留めた。
 笛の音の余韻が消えるのを待ち、お菊はおもむろに皿を数え始めた。
「一枚……二枚……三枚……」
 前述の通り、九枚目の皿を数える声を聞くと死んでしまう、と言うのは都市伝説に過ぎない、しかし、それは今でも幽霊ファンにとっては定説となっている。
 お菊は、数を重ねる毎に会場の空気が張り詰めて行くのを感じていた、この空気を生かさない手はない。
「……四枚…………五枚………………六枚……………………」
 一枚毎に間を長く取るようにして会場の緊張を高めて行く。
「……………………七枚…………………………八枚………………………………」
 とうとう八枚目、会場全体が固唾を呑んでいるのがわかる。
「………………………………」
 お菊はそこで長い長い間を取り、静かに振り返りながら言った。
「これ以上数えると、お前様方の命を取らねばなりませぬ……今宵はここまでに……」
 息を止めるようにしていた観客は一様にほっと息をはく……そのほっとした心持に染み入るようなお菊の美貌、そしてその青白く半透明な顔に浮かんだ微笑は、元々がクール・ビューティなだけに心和ませてくれるものがあった。

(あたし、上手くやれたかしら?)
 そんなお菊の気持ちとは裏腹に得点はぐんぐんと伸びて行く。
 ここまでのトップは、安達ケ原の鬼婆の2,335点だったが、得点はその点数を超えてなお、ゆっくりと伸びて行く。
 2,353点! お菊がトップに立ったのだ!


「『番町皿屋敷・お菊』殿であった、オーソドックスといえばオーソドックスだが、長い伝統に根ざした完璧なパフォーマンスであった、我輩は悪魔だから大丈夫だが、人間である諸君は九枚目がカウントされるのではないかとハラハラしたのではないかな? 八枚目で止めたお菊殿の優しい心遣いとその美貌は、緊張の糸を心地良く緩めてくれたな、ここまでトップの得点も頷ける。 では、次が最後のパフォーマーとなる、これも和のティストに溢れたものになると思う、堪能してくれたまえ」

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 緞帳が上がるとそこは一面の雪景色、その中に浮かぶ小屋は盛んに燃える囲炉裏の火で温かく照らされている。
「子供たちはもう寝たのか?」
「ああ、寝たよ……今日は酷い吹雪だねぇ」
「ああ、今年一番かも知れねぇな」
「こんな日でも温かくて滋養のあるものを食べさせて、暖かな夜具を着せて、こうやって囲炉裏の火を絶やさないようにしてやれるのも、あんたが雪の中一生懸命猟で稼いで来てくれるおかげだよ」
「何を今更、当たり前ぇもことじゃねぇか」
「でもね、あたしはそれをありがたいことだと思ってるよ、あんたと一緒になって本当に良かったってね」
「なんだい、照れるじゃねぇか」
「あんた……」
「俺のほうこそありがたいと思ってるんだぜ、こんな別嬪と一緒になれて、可愛い子供たちにも恵まれてな……お前は初めて会った時から変わらねぇな」
「ばかをお言いでないよ、あたしも歳を取ったさ」
「いいや、ちっとも変わらねぇ……初めて会った時のままだ…………だけどよ」
「なんだい? お前さん」
「あん時、俺ぁ、お前ぇと初めて会ったような気がしなかったんだ」
「…………」
「やっぱりこんな吹雪の晩だった、お父ぅは山で死んじまってたから、俺ぁ、爺さまに猟を教わった、ある時、山でこんな吹雪に出くわしてな、爺さまと俺は山小屋に逃げ込んだんだ……その晩、ふと目を醒ますとな、青白い顔をして真っ白な着物を着た女が爺さまの顔に息を吹きかけてるのを見たんだ、俺は恐ろしくなって夜具に頭を突っ込んで寝ちまったが、あくる朝、爺さまは冷たくなっていた……あの時の女……お前ぇに似てるような気がするんだよ………………ははは、この話は忘れてくれろ、きっと俺ぁ夢を見てたんだ、山小屋の隙間から吹き込んでくる冷たい風が俺に変な夢を見せたに違ぇねえ、爺さまもその隙間風にやられたに違ぇねぇんだ、随分な歳だったからな、爺さまは」
「その女、あんたに何か言い残さなかったかい?」
「言い残すも何も、夢じゃねぇか」
「夢の中でのことだったとしてもさ、何か言い残さなかったかい?」
「そう言えば……」
「何と?」
「この事は決して人に話すな、と……話したら俺を殺さねばならないと……」
「そう、あたしはあんたにそう言ったんだよ」
「お……お雪、お前ぇ……」
「そう、あたしはあの時の雪女だよ、人の命を取って廻るのがつくづく嫌になって、この男となら、とお前さんを見初めたのさ……幸せだったよ、可愛い子供たちにも恵まれて、人の命を取らないで済む日々がこんなにも穏やかなのかってね……でも、お前はあの時の約束を破った、正体を明かしたからには……」