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カケイケンの由紀

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とにかく一縷の望みをこめて電話を掛けてみる事にしたのである。・・・立花 学「やあ、由紀ちゃん、いや、由紀さん、久しぶりだね」中村由紀「まあ、学さんったら、久しぶりはないでしょう・・・先日お会いしたばかりじゃない ?・・またお誘いしていただけるの」立花 学「うん ? ああ、そうだったね、・・・いや、実は今日は仕事の件で電話を掛けたのだけれども」と言って、事件の内容や遺留品の事、そして上司に大見得を切った事などを、包み隠さず話したのであった。立花 学「本来ならば鑑定依頼を正式に出してからと思ったのだけれども、つい上司の前で・・その」中村由紀「安心して学さん、私の研究室の主任研究員をされている方は、動物の皮膚や細胞のDNA解析で学位を取られた方だし、最新の分析設備も整っているから、さらに詳しく鑑定できると思うの」立花 学「今、されている研究の妨げにならなければよいのだけれど」中村由紀「それは大丈夫よ、とっても優しい方だし、それに・・」と言って、僅かに声を沈ませたので、すこし気になった学は、立花 学「それに、・・なに」と、聞き返すと、中村由紀「大学時代の同じ研究室の先輩で、昔から憧れていた方だから」と言われ、学ははっとして、肩の荷は下りたものの、今度は胸の奥に何やら重苦しいものを詰め込まれたような、切ない思いを覚えたのであった。
立花 学「由紀さんには、そういう素敵な人がいたんだ」中村由紀「ええ、とっても優秀な方なの」立花 学「由紀さんが優秀な人というと、僕にはもう想像すらできないな」中村由紀「・・山城さゆりさんとおっしゃられるのよ」立花 学「えっ・・・女性の方だったの」中村由紀「学さん !・・どのような方だと思ってらっしゃったの ?」立花 学「いや、・・・実に素晴らしい先輩を持って本当にうらやましいなと思って」と言って電話を切り、直ぐに証拠品発送の手続きを始めたのであった。立花 学「とにかく今日は、いろんな難事件に遭遇したような、驚天動地の一日だったな」と呟きながら、これで目鼻がつけばと思いなおして、庁舎を後にしたのであった。翌日にはもう由紀からのメールがあり、無事鑑定を終えて、証拠品と共に鑑定報告書を添え送り出したとの事であった。そしてそのメールの末尾には、熱い恋人同士が度々交わす絵文字が添えられており、またまた、心が僅かに揺れ動いたのであった。同室のまだ学生気分の抜けきらない女性職員に、「ちょっと捜査上の参考にしたいのだけれども」と言って、その絵文字の意味を尋ねてみると、後輩女性職員「きゃっ、先輩がもらったのですか」と言って、パソコンの手をとめ振り返ったので、立花 学「いや、だからね、ほんとに参考にしたいだけなのだよ」と、しつけるように重ねて言うと、後輩女性職員「そうですねー、文章に愛嬌を持たせるのには便利だしー、媚を売るときとか、感謝の気持ちとかー、うれしい気持ちを伝える時とかにそういうマークを使いますね」立花 学「ほかに・・・他意はないの」後輩女性職員「他意 ? 普通は、・・・特に深い意味はないと思います」と、あっさりと言われ、立花 学「自分はいったい何をしているのか全く、寸暇を惜しんで事にあたらなければならない時なのに、刑事としての自覚が崩壊し始めているぞ」と思い直し、わき道にそれた自身を叱咤したのであった。
やがて、科警研からの荷物はすぐに到着し、中に納められていた鑑定検査結果報告書を取り出して、科警研様式につづられた内容を確認したのであった。最初に、ご依頼の鑑定資料として、1. 猫型のブローチ1個 2. ブルーカラーのスーツスタイルショートタイトワンピース一着 鑑定対象資料1の猫型ブローチに関しては、科捜研の鑑定結果を踏襲するもので、新たな知見はなかったとの事であったが、鑑定対象資料2の衣服に付着していた食肉目ネコ科の毛及び毛根などからDNAサンプルを採取し分析した結果、その生物の種類と、性別が新たに特定されたとの事であった。これには学もぐっと目を凝らし、さらに報告書を熟視したのである。それには、  学名: Felis catus
出生:アルハンゲリスク(ロシア北西部の都市)
上位分類: 猫 自然発生種
分類階級: 品種 ロシアンブルー
性別:オス ♂
短毛種であり、毛の色はブルー(猫の場合、グレーの被毛を指す)によるソリッド・カラー。
アイカラーはグリーン、目の形はラウンド型、体形はフォーリン・タイプ。
性格については、「犬のような」性格の猫だと言われる。これは、自由気ままな猫の中でも、飼い主と認めた相手には献身的な愛情を持つが、人見知りが激しく神経質な面がある。以下ご報告いたします。と書かれ、DNA型鑑定資格認定登録番号の下に、山城さゆり鑑定検査技術技官、並んで鑑定検査技術補助、中村由紀と記されていたが、よく見ると山城さゆり氏の名前の下には、赤いペンで下線が引かれていたのである。これは先日電話した折の言葉足らずを、自省するためのものか、それとも・・・と思っていた矢先、由紀から電話が入ったのであった。
中村由紀「学さん、・・報告書ご覧になって」立花 学「ありがとう由紀さん、いま読み終えた所だよ、そして山城技官にも大変感謝していると伝えてください」中村由紀「はい、かならずお伝えします。それと・・これは私の推測なのだけれども、・・・今、話しても大丈夫かしら」立花 学「ちょうど会議室奥で、1人で作業していた所だから大丈夫だよ、それに色々な視点からの意見はとても参考になるからね」中村由紀「山城技官による毛根の細胞分析では、かなり成熟した組織だったそうよ。年齢にたとえたら、そうねぇ、およそ4~5歳ぐらいじゃないかしら」中村由紀「それに、鑑定資料2のタイトワンピース生地を詳しく調べてみたら、生地上層部が僅かに痛んで荒れていたようなのよ、これはたぶん室内飼いの猫の毛を取るために、日常的に粘着テープを使用していた証拠じゃないかと思うの」中村由紀「それで、室内飼いのそれも4~5年経った猫だったら、必ず何処かで去勢手術を受けているはずよ、それも希少種のロシアンブルーだから絞り込めるかと」それを聞いた立花 学は、絶句するほどの興奮を覚え、立花 学「それだ由紀さん、その手術を受けた病院を探し出せばカルテが必ず残っているはずだから、名前や住所も特定できる」立花 学「いやー、由紀さんの慧眼には、おそれいるばかりだ、これからすぐに上司に報告し、捜査第6係全員で事件現場周辺から、まずあたってみるよ」と言って電話を切り、興奮気味に上司の元へ走ったのであった。
・・・上司「凄い手がかりが見つかったものだな、さすがに科警研だ、これは決め手に近いかもしれないぞ、よし、事件現場周辺あたりから徐々に範囲を広げて行って、ロシアンブルーを手術した動物病院を特定する事に全力を挙げてくれ。それと署員が持っていく証拠資料の写真を大量に作っておいてくれ、たのむぞ」と言って上司は、捜査1課長の所へ報告に行ったのである。あわただしくなった捜査第6係では、都内の動物病院の全リストを作成し、現場近くからしらみつぶしにあたる事になった。
作品名:カケイケンの由紀 作家名:森 明彦