赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60
「突然に何を言い出すかと思えば、このドスケベ子猫!。
たま。わたしは卑猥な子猫に、手加減など絶対にしませんよ。
悪い子は、飯豊連峰に住んでいる猛禽類のイヌワシか、クマタカの
餌にしてやるぞ。
それとも山麓に住むツキノワグマか、カモシカの餌食になりたいか!
遠慮はいらぬ。どちらでも良い。たまの好きな方を選ぶがいい。
私は冗談はいわない。いつでも本気だぞ!」
恭子の剣幕は、ほんものの様だ。
殺気を感じたたまが、急にしどろもどろの低姿勢にかわる。
『待て待て恭子。悪気はない、話せば分かることだ。
乱暴なことだけはしないでくれ。おいらは猛禽類も獣も、どちらも嫌いだ。
まだこんな所で死にたくはない。
謝る。謝るから、乱暴なことだけは考え直してくれ。
まったくもって清子も恭子も、揃いも揃って気が短すぎる。
怒った途端、予測不能の非常識な行動に出るから、困ったもんだ・・・』
でも、やはり、お前の胸からは、何とも言えないいい匂いがすると、
たまがふたたび鼻面を恭子の胸に押しつける。
『仕方ない猫だなぁ、お前って子も』
あきらめ顔の恭子が、たまの頭をそっとなでる。
飯豊連峰は山裾の雄大さにおいて、東北でも屈指の山容をほこる。
福島、山形、新潟の3県にまたがり、2000mをこえる山頂がいくつも連なる。
山脈はゆうに20キロを超える。
主峰の飯豊山は古くから、会津の人々から熱い信仰を集めてきた。
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60 作家名:落合順平