赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60
「だから素人は困る。
むかしのことだ。人参とごぼうと大根は、まったく同じ色をしていたんだ。
ある日。人参とごぼうと大根がお風呂に入ることになった。
「いちば~ん」。あわてん坊の人参が確かめもせず、一番先に風呂へ
飛び込んだ。
そしたら、お風呂が熱いこと、熱いこと。
それでも人参は、真っ赤な顔で我慢しながら、熱い風呂にはいった。
だから人参の色は、いまのような真っ赤になったんだ。
次に入ったのがゴボウだ。「熱いお湯だなぁ~」。
ごぼうは熱いのが嫌いなので、体も洗わず風呂から出てきた。
それでゴボウは、黒い色をしているのさ。
で、最後に入ったのが、大根だ』
『ちょうどいい、湯加減だ。
大根は最後に入ったので、熱いお風呂もちょうどいい温度になっていた。
気持ちの良いお風呂だったので、きれいに体をあらい、
おかげで真っ白になった。
それで大根の体は今でも真っ白だと言いたいんだろう、お前は』
『何だよ。知ってんじゃねぇか。
清子っ。お前なぁ・・・・人の楽しみを途中で奪い取るんじゃねぇ。
接客のプロになるというのに、人の話の腰を折るのは最低だ。
それよりよ。ハクサンイチゲの周りで点々と咲いている、
あの紫の花はなんだ?。
なかなか風情があって、いい花じゃないか』
『イイデリンドウ(飯豊リンドウ)と言うんだ。たま』恭子が近づいてくる。
近くで見せてあげるからおいでと、清子の懐からたまを抱き上げる。
飯豊山にしか咲かないという飯豊リンドウは、ミヤマリンドウからの変種。
茎の部分が長く、地面をひくく這う。
途中から5cmから12cmほど、茎先が立ち上がる。
茎の上部に直径が20mm~30mmの薄紫色の花を、1個から4個ほど咲かせる。
原種のミヤマリンドウは、沢筋などの少し湿り気のある場所に自生している。
イイデリンドウは、やや乾いた岩礫地や、小低木の群落の中に自生する。
飯豊山神社から、飯豊本山を経て、御西岳へ至る稜線上で
よく見ることができる。
特に烏帽子岳から北股岳、門内岳、地神北峰にかけた稜線の新潟県側斜面の
乾いた場所で、一面の群生を見ることができる。
(58)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60 作家名:落合順平