赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60
ゆるい稜線を一つ越えたとき。
真っ白の絨毯のひろがりが、2人の目に飛び込んできた。
ハクサンイチゲの大群落だ。
白山一華は、高山の湿り気のある草原に生えるキンポウゲ科の多年草。
日本を代表する高山植物のひとつ。
高山に登れば、必ず見ることのできる花だ。
草丈15cmの花茎の先端に、花径3cm程の白い花を、3~5個つける。
花期は7~8月。花言葉は「幸せを招く花」。
アルプスで雪解けを待って咲きはじめるのが、このハクサンイチゲ。
「上品で、清楚なお花です。
でも、思っていた以上に大きなお花です。図鑑と本物とでは大違いです。
たま。真っ白のハクサンイチゲは、見るからに美人さんですねぇ」
「このお花畑が見たくって、麓からたっぷりの時間をかけて、みんな
飯豊連峰に足を運んでくるのさ。
縦走や日帰りの登山ではなく、2泊、3泊と連泊しながらあちこちへ
足を伸ばすんだ。
そうしてこの山のお花畑を満喫していく。
そんな風に山歩きが楽しめるのは、たぶん、ここだけだ。
のんびり雲の上の散策を楽しむ、それがこの山、飯豊山の醍醐味なのさ」
『さすがだねぇ。恭子の言うことには、いちいち説得力がある。
それに比べると白い花を、ただ上品で清楚ですねぇなどと褒める清子は、
どうもイマイチだ。
おまえ。ボキャブラリーが不足し過ぎているぞ』
『へぇぇ。じゃあ、たまなら、白い花を、いったいどんな風に褒めるのさ。
言ってごらん。あたしが評価してあげるから』
『楚々としたたたずまい。凛とした風情、なんてのもいいな。
なんだか女性の白いうなじを連想させる。
白いもち肌なんてのもいいな。男心をそそるものがあるぜ。
そういえばお前。なぜ大根が真っ白なのか知っているか?」
「とつぜん何を言うのさ。大根が白いのはあたりまえでしょ」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60 作家名:落合順平