赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60
『何してんの、たま。おへそを取られてしまいますよ!』
手を伸ばした清子が、かき寄せるようにたまを手元へ抱き寄せる。
雷はいっこうにとまらない。
激しい雨と猛烈な稲妻はこの後、1時間あまりにわたりドカン、ドカンと
2人の周りで山の洗礼を轟かせる。
山の雷は突然終わりを告げる。
ある瞬間から急に静かになり、雷雨が遠ざかっていく気配がやって来る。
それが2人に、手に取るように伝わってくる。
ふいの静寂がやってきた。
雨があがった瞬間。雷はまるで駆け足でもするかのように山小屋から、
あっという間に遠ざかっていく。
あれほど騒がしかった窓の外が、満天の星空に変わっていく。
「お~い。無事かい、お2人さん。
無事でいるなら、山小屋の外へ出ておいで。
雷さんの置き土産は、降るように輝く、満天の天体ショーの始まりだ。
凄いぜぇ。銀河の星が一斉に、おれたちの頭の上で勢揃いしている。
こんなすごい星空を見るのは久しぶりだ。
早く出てこい、今夜の星空は最高だ!」
「たま。表で、星空が最高ですって。見に行こうよ!」
たまを抱えた清子が、元気いっぱい立ち上がる。
『うふふ。さっきまでわたしの懐で泣いていたカラスが、もう笑っている。
現金だねぇ。清子は』
寝袋を被ったせいですっかり汗をかいている恭子が、指先で濡れた前髪を
かきあげる。
『おまえだけだ。騒がずに、ぼんやりしていたのは、ねぇ、たまや』
うふふと恭子がたまに、笑いかける。
(57)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60 作家名:落合順平